深田晃司監督初のドラマ『本気のしるし』、“わかりにくさ”から生まれる独特の中毒感

深田晃司監督初のドラマ『本気のしるし』、“わかりにくさ”から生まれる独特の中毒感

簡単にわからないからこそ、わかりたいという心理が生まれる

 こうした奇妙な世界観を築き上げているのが、異才・深田晃司だ。今作では、テレビドラマには欠かせない劇伴がほとんど用いられていない。生活音のみで淡々と描かれていくので、視聴者はまるで辻と浮世の転落劇を覗き見しているような感覚になる。また、劇伴がほとんどないからこそ、生活音が異彩を放つ。印象的なのが、辻の部屋にある水槽の音だ。特に第2話で、水槽越しに辻と細川先輩のやりとりを映し、その声を水音でかき消す演出は、何とも不穏だった。絶え間なく流れる水の音が通奏低音となって、不気味さを引き立たせている。

 そして、テレビドラマでは当たり前に使われているカットバックがほとんど使われていないのも特徴的だ。一般的に、二者の会話を撮るとき、話し手と聞き手、それぞれのアップを交互に切り返すことで、お互いの心情を映像で切り取り、編集のリズムを生む。だが、今作では多くを引きの画で処理し、どちらかが話しているときに、もう一方の顔はほとんど映らないことが多い。こうした「あえて映さない」美学が、今作では随所に見られる。顔が見えないことにより、視聴者はおのずと今どんな表情をしているのかを想像する。わからないことが、逆にわかりたいという心理を生むのだ。

 顕著だったのが、第5話のラスト。結婚をちらつかせるも「ごめんなさい。今の本心じゃないの。やっぱり今まで通りでいましょう」とすがる細川先輩の表情はまったく映らない。彼女がどんな顔をしているかわからないまま、その背中で第5話はエンドを迎える。これが、一瞬でも彼女の表情を抜いてしまったら、途端に凡庸なシーンになっていたはずだ。徹底的にわかりやすさが求められる昨今のテレビドラマにおいて、深田監督の「わかりにくさ」は独特の中毒感を生んでいる。

 何より非凡なのが、原作の巧みなアレンジだ。監督自身が長年映像化を熱望していただけあって、物語そのものは原作に忠実な展開となっている。大きく違うのは、辻の会社が原作では文具店だったのが、ドラマでは玩具メーカーに変更されていること。そして、辻がザリガニを飼育していることだ。

 冒頭で紹介した花火シーンは、辻が玩具メーカー勤務だから生まれた場面。ワンシーンで辻と浮世の性格の違いを表す秀逸なアイデアだったと思う。また、ふたりが初めて出会ったコンビニで浮世が買った商品は、原作では冷凍ハンバーグだったが、ドラマではしゃぼん玉の玩具になっている。ふわふわと行きどころがなく、ふれたら簡単に壊れるしゃぼん玉は浮世のキャラクターを代弁しているし、何よりその儚さがふたりの未来を暗示しているように思えてならない。

 水槽の中で飼われたザリガニは、辻自身のメタファーだろうか。エサが少なければ平気で共食いもする凶暴なザリガニ。退屈な日常に飼い慣らされた辻自身の獰猛さや破滅願望が、清潔な水槽の中で暮らすザリガニと重なるものだとしたら。この先に待っているものは、穏やかではないだろう。

 静かに狂う人々の冷めた高熱に、気づけばヒリヒリと胸を焼かれる異色の恋愛サスペンス。地上波では愛知・岐阜・三重の東海3県と神奈川(テレビ神奈川)でしか放送されていないが、各話放送終了後にはTVer、GYAO!で配信も行っており、現在は第1話からの見逃し配信が無料で視聴できる。埋もれさせるには惜しい秀作だけに、ぜひ今からでもチェックしてほしい。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が1/30より発売。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
メ~テレドラマ『本気のしるし』
メーテレにて毎週月曜深夜0:54~1:26、テレビ神奈川毎週水曜よる11時放送
TVer、GYAO!にて見逃し配信中
監督:深田晃司
脚本:三谷伸太朗
プロデューサー:高橋孝太(メ~テレ)、太田雅人(メ~テレ)、松岡達矢(メ~テレ)、加藤優(メ~テレ)、戸山剛(マウンテンゲートプロダクション)、阿部瑶子((ウンテンゲートプロダクション)
出演:森崎ウィン、土村芳、宇野祥平、石橋けい、福永朱梨、忍成修吾、北村有起哉 ほか
原作:星里もちる『本気のしるし』(小学館 ビッグコミックス刊) 
(c)星里もちる・小学館/メ~テレ
公式サイト:https://www.nagoyatv.com/honki/
公式Twitter:https://twitter.com/nagoyatv_honki
公式Instagram:https://www.instagram.com/nagoyatv_honki/

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