『マチネの終わりに』石田ゆり子、3か国語操る声の美しさ キャリアとともに厚みを増す魅力とは

『マチネの終わりに』石田ゆり子の声と眼差し

 人は、未来だけを変えられると思っているが、未来によって過去の印象も大きく変わる。過去が幸せな思い出になるかどうかは、未来にかかっている。そんな蒔野と洋子が意気投合した考えが、鑑賞中にも何度も痛感する。

 昔、楽しく遊んでいた庭の大きな石も、不幸な出来事のきっかけになってしまえば、もう昔のようには愛でられない。かつては、最善だと思っていた選択も、未来には最悪のシナリオだったと気付かされることもある。だったら、その悲しむべき事実を恨むのではなく、何度でも自分や誰かを愛する未来へと塗り替えていくしかない。もしかしたら、多くを語らない石田ゆり子自身が、そうして生きているのではないかと思わせるシーンがある。

 本作のクライマックスとも言える、恋がすれ違った理由を知ったときの洋子の姿だ。これぞ、まさに石田ゆり子の真骨頂とも言えるシーン。自分の人生を、そこで得てきた幸せを大切にしている人じゃなければ、説教のように聞こえかねないセリフが、彼女の声と眼差しでスッと心に浸みるのだ。

 人生経験を重ね、新たな役に挑戦するたび、その声に、その眼差しに、重みと魅力が重なっていく石田ゆり子という女優。それまでの経験があればこそ、今の彼女があるのだと感謝せずにはいられないほどに。そして、この先の未来も、きっと彼女に憧れ続けるに違いない。『マチネの終わりに』私たちは、石田ゆり子という女優にまた恋をする。

(文=佐藤結衣)

■公開情報
『マチネの終わりに』
全国東宝系にて公開中
出演:福山雅治、石田ゆり子、伊勢谷友介、桜井ユキ、木南晴夏、風吹ジュン、板谷由夏、古谷一行
監督:西谷弘
原作:平野啓一郎『マチネの終わりに』
脚本:井上由美子
音楽:菅野祐悟
製作:フジテレビジョン、アミューズ、東宝、コルク
制作プロダクション:角川大映スタジオ
配給:東宝
(c)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク
公式サイト:matinee-movie.jp
公式サイト:@movie_matinee

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる