ディズニーの映画市場独走の背景には何がある? フランチャイズ作品の不振とともに考える

ハリウッド、ディズニーの一人勝ちに!?

 一方ディズニーは、スター俳優に頼りすぎることなく、常にディズニーとしてのブランド性を最優先にしてきた。『スター・ウォーズ』シリーズにしろマーベル作品にしろ、Aリストのトップ俳優は出演しているし、それが興行収入に大きく貢献していることは疑う余地もないが、例えばトム・クルーズやウィル・スミスとトミー・リー・ジョーンズのコンビなしでは決して成立しない『ミッション:インポッシブル』シリーズや『MIB』シリーズとは違い、スターはあくまで一つの要素でしかなく、ディズニー作品で前面に出されているのは、その世界観とブランドそのものである。そしてその映画には、親子で安心して観ることのできるPG-13というレイティングが徹底されている。そういった確固としたブランドイメージを決して外れることなく、世代を超えて楽しめる作品を出し続けるところに、現在のディズニーの成功の要因があるのではないか。

 今ハリウッドは、「シネマティック・ユニバースの構築」というゴールを見つけ、各スタジオは自分たちの「ユニバース」を一つでも多く立ち上げることに躍起になっている。ただし、この「シネマティック・ユニバース」はあくまでも一つのモデルであって、それが将来まで見据えると絶対的に正しいわけではない。メジャースタジオは映画ビジネスで利益を出さねばならないと同時に、程度の差こそあれ、「映画」というアート作品を生み出す組織でもある。クリエーターのもつ創造性よりも確立したブランドイメージの方が優先される環境の中、フランチャイズやリメイク作品を量産することで、作品作りに関わるクリエーターたちの創造性の発揮される場所が限られ、クリエイターたちのモチベーションが満たされるかは疑問である。こういった状況は、結果的にクリエイターたちがスタジオを離れ、競合している別のプラットフォームへと活動の場所を移すことにもつながり、長い目で見ると良い作品作りのパートナーを失うことにもなりかねない。

 自分の部屋の中で、観たい作品を観たいときに観ることのできる数多くの配信サービスとの熾烈な競争にさらされることになった映画は、オーディエンスがお金を払ってまで2時間という時間を差し出すだけの価値を証明する必要に迫られている。その一番確実な方法として、映画ならではのスケール感をもつスーパーヒーロー作品や、過去のヒット作のリメイクへとスタジオが舵を切ったのは、ある意味リスク回避のための当然の戦略と言える。

『ジョーカー』(c)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & (c)DC Comics”

 11月からはディズニーとアップルがそれぞれ独自の動画配信サービスをローンチすることになっており、AT&Tによる買収で新しく誕生したワーナーメディアも2020年初にHBO Maxをローンチさせる。これによってハリウッド内での動画配信のシェア獲得競争がさらに激しくなると同時に、これまでの「映画VS配信」という単純な構図から、全プレーヤーが同じ土俵に立った上でのオーディエンスの獲得競争という構図に変わりつつある。今以上に世の中には観る作品が溢れる一方、消費者は多くの選択肢の中から、お気に入りのブランドを選ぶことを迫られる。そんな中、「映画館に足を運ぶ意味を証明する」という点でいうならば、DCブランドの一部でありながら、予告の投下の時点で「質の高い映画」であることを知らしめ、DCファンと同時に、アート系映画ファンの心もつかんだことによって全米で2億5800万ドルの興行収入をあげた『ジョーカー』(10月4日公開)は、一つの成功例であり、今後のビジネスとアートの共存の方法のヒントとして、世に示されることとなったのではないだろうか。

参照

https://www.hollywoodreporter.com/news/box-office-blues-2019-revenue-down-10-percent-midyear-1221934?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_source=t.co&utm_medium=referral
https://www.hollywoodreporter.com/news/studio-dilemma-risk-a-box-office-flop-sell-netflix-1246354
https://www.indiewire.com/2019/06/summer-box-office-men-in-black-international-shaft-flop-1202150317/
https://observer.com/2019/06/x-men-dark-phoenix-hellboy-keanu-reeves-shaft-biggest-box-office-flops-2019/
https://www.thewrap.com/2019-summer-box-office-final-total/
https://www.boxofficemojo.com/

■神野徹
北海道出身。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で映画プロデュースを学び、その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。

■公開情報
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
12月20日(金)全国ロードショー
監督・脚本:J・J・エイブラムス
配記:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2019 ILM and Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
公式サイト:https://starwars.disney.co.jp/movie/skywalker.html

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