広瀬すず×志尊淳が魅せる、若さに満ちた輝き 舞台『Q』が提示する源平の世の「ロミジュリ」

広瀬すず×志尊淳が魅せる、若さに満ちた輝き

 クイーンの楽曲は舞台を鮮やかに彩っている。ミュージカルや音楽劇ではないため、歌を前面に押し出すわけではないが、曲のタイトルがそのままセリフに登場したり、楽曲からインスパイアされたエピソードが挿入されたり、ハードロック調のギターのフレーズが緊張感を演出したり、歌詞の内容と劇の内容がクロスオーバーする瞬間が随所にあり、『オペラ座の夜』というアルバムの楽曲が持つ演劇性をうまく取り込んだ野田の演出に魅せられる。恋愛物語だけあって「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」の甘く切ないメロディと歌唱は、2人の男女の悲恋に寄り添うように印象的に使われているし、「ボヘミアン・ラプソディ」におけるフレディの叫ぶような歌唱が劇中の叫びと重なったとき、鳥肌が立つほどの感動が押し寄せた。

 野田特有の言葉遊びも楽しい。ジュリエットの「その名前を捨てて」という有名なセリフから想起された物語の展開は、様々な現代社会の事象を飲み込みながら転がっていく。古典をベースにしながら現代性を描くのは野田の真骨頂だ。身近な事象の連続により、徐々に物語は私たち自身の物語と同化して、見る者の心を激しく揺さぶる。そうして、2人の恋の物語というミニマムな視点から、いつしか物語はもっと広大な視点へと飛躍していく。今まで何が起きたのか、今何が起きているのか、そしてこれからどうすべきなのか、過去・現在・未来について知ること、感じること、そして考えることがどれだけ必要なことであるかを、この舞台は訴えかけてくる。そして松、上川、広瀬、志尊をはじめとする出演者たちがそれぞれに舞台上で自分の役を精いっぱい生きている、その切実な演技がこの作品のメッセージをより強く発信して、胸に迫ってくる。

 若い2人の恋物語から派生した壮大な野田ワールドを、俳優たちと共に時空を超えて旅しているような感覚になる約3時間(休憩15分含む)。美しきスペクタクルを楽しみながら、様々に感じ取って欲しい。

(撮影=大和田茉椰)

■久田絢子
フリーライター。新聞ライター兼編集(舞台担当)→俳優マネージャー→劇場広報→能楽関連お手伝い、と舞台業界を渡り歩き現在に至る。ウェブ「エンタメ特化型情報メディアSPICE」等で舞台・音楽などのエンタメ関連記事を中心に執筆中。

■舞台情報
NODA・MAP第23回公演『「Q」:A Night At The Kabuki』
・東京公演
10月8日(火)~10月15日(火)東京芸術劇場プレイハウス
11月9日(土)~12月11日(水)東京芸術劇場プレイハウス
・大阪公演
10月19日(土)~10月27日(日)新歌舞伎座
_北九州公演
10月31日(木)~11月4日(月・祝)北九州芸術劇場 大ホール
作・演出 :野田秀樹
音楽 :QUEEN
出演 :松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳、橋本さとし、小松和重、伊勢佳世、羽野晶紀、竹中直人、野田秀樹
公式サイト:https://www.nodamap.com/q/

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