伊藤沙莉、“集団”の中でこそ真価を発揮 『これは経費で落ちません!』で理想の後輩役に

伊藤沙莉は現代人の代弁者に

 『これは経費で落ちません!』(NHK総合)ほど登場人物全てが魅力的なドラマはない。第6回において江口のりこ演じる麻吹美華の登場で穏やかな経理部がどう変わってしまうのかと思いきや、その強烈な個性が1話終わる頃にはうまく調和し、次の回になると多部未華子演じる森若のツッコミのキレも増して経理部の面白さが倍増している。

 ふんわりしているように見えて、それぞれにクセや問題を抱えている登場人物たちが、それを個性とみなし互いを認め合うことでうまく回っている「天天コーポレーション」は、昨今増えた「お仕事ドラマ」と比較しても理想的な会社だ。

 中でもその笑顔に癒されずにはいられないのが、伊藤沙莉演じる佐々木真夕だ。いつも天真爛漫で素直な反応が見ていて飽きない。話の本筋とずれても自分の興味がある方にひた走る。経理部以外のガールズトークにも頻繁に加わり、外の話題を森若たち経理部にもたらす役割を担っている。吹越満演じる部長との遠慮のない掛け合いも癒しの1つである。

 自分のお弁当と森若のお弁当の中身を見比べてしょんぼりしたと思ったら、森若のお弁当に手を伸ばしていたり、皆でラーメンを食べにいくことを固辞する森若に何かを耳打ちして説得したり、一緒に出かけたりと、嫌味のない愛くるしい笑顔で森若を引っ張りまわすことで、奥手でマイペースな森若を外の世界に連れ出している。「こんな後輩がいたらなあ」と誰もが思わずにいられないキャラクターだろう。

 『これは経費で落ちません!』は森若が経理の仕事を通して会社の諸々の問題を解決していくドラマではあるが、人に自分のペースを乱されたくない彼女が、その律儀さと優しさから、人と関わらずにはいられず、自分自身も変わらずにはいられなくなっていく。そして森若を大きく動かしたのは、その恋愛模様のあまりの初々しさに視聴者を毎週悶絶させている山田太陽(重岡大毅)である前に、後輩である真夕の存在も大きいのではないか。

 最近思うのだが、ここ数年のドラマや映画においてキャスト欄に伊藤沙莉の名前があるとまず間違いない。彼女を起用するスタッフのセンスもあるだろうが、彼女の力も大きいだろう。確実にそのドラマや映画は心に残る一本になっている。

 朝ドラ『ひよっこ』(NHK総合)における愛されキャラ・米子役は言うまでもない。ヒロインのバイト先の後輩を演じた『恋のツキ』(テレビ東京系)、ヒロインにかつて恋心を抱いていた同級生を演じた映画『パンとバスと2度目のハツコイ』(今泉力哉監督)、ヒロインの友人を演じた『寝ても覚めても』(濱口竜介監督)、錚々たるバイプレイヤーたちの演技合戦の中で爽やかに場を掴んで去っていくことで、バイプレイヤー界のホープであることを示した『blank13』(齊藤工監督)、突然ゲストとキスしたり交通事故にあったりとフィクションと知りながらもドキマギさせられる一方で、役作りに対する真摯な姿に心打たれたフェイクドキュメンタリー『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(テレビ東京系)。

 子役時代の『女王の教室』(日本テレビ系)や、佐久間由衣との『トランジットガールズ』(フジテレビ系)も印象深いが、一際心に残っているのは主演映画『獣道』(内田英治監督)である。地方都市の底辺を足掻く若者たちを描いた映画だが、どこまでも転落していくヒロインは、実は愛に飢え、傷ついた孤独な少女でもあり、時に全てを与える聖女にも見えてくる様は、伊藤の子役時代から培ってきた演技力の為せる技だった。久々に会った母親にそっけない態度をとられた時、寂しそうに揺らいだ伊藤の目の儚さがヒロインの全てを物語っている。

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