吉沢亮の演技経験が活かされた『なつぞら』天陽くん 朝ドラでの大人気を経た、今後への期待

吉沢亮、『なつぞら』人気を経た今後への期待

 カボションカットのようになめらかな楕円形で、人間の多面性を表現する能面のような在り様をどこで身につけたのか、どんな役にも変化する吉沢亮は、昨今の若手俳優のデビューからブレイクまでのひとつのパターンである特撮ヒーローものや漫画原作もの、青春恋愛ものなどに出演してきた。代表作となった映画『リバーズ・エッジ』、『ママレード・ボーイ』、『銀魂』、『キングダム』などは漫画原作もの。原作漫画のイメージを損ねない技能を研ぎ澄ませてきたことも功を奏したのだろう。

『ママレード・ボーイ』(c)吉住渉/集英社 (c)2018 映画「ママレード・ボーイ」製作委員会

 『なつぞら』はオリジナルドラマ。天陽くんには神田日勝という実在の画家(十勝で農業をしながら絵を描いていた)がモデルだとされているが、外観はそこに似せていない。吉沢亮の芝居で勝負するドラマであった。十代の頃の天陽くんは、吉沢のピュアな美しさをそのまんま出して、生活、夢、恋……いろいろなことに葛藤を抱えた等身大の少年の心をビビッドに出していた。いわゆる青春恋愛ものの経験が生きた。

 そして、年齢を経て、夫となり父となり、画家としても進化していくにつれて、どうなったか。みごとに、ちょっとおじさんになっていた。いい意味で。農業しながら絵を描いているたくましさ、都会で生きるのとは違う素朴さみたいなもの、家族を背負っている責任感みたいなものが口調や表情に出ていた。これこそが、生活と絵が共にある山田天陽に必要な部分で、それをしっかり吉沢亮は演じていた。『なつぞら』に出ている安田顕がやっぱり端正な顔立ちながら生活者の滋味を深めていて、吉沢亮もその方向性に行けそうな気がする。

 天陽が入院してからの地元の幼馴染・雪次郎(山田裕貴)との会話など、ちゃらついたところが微塵もない、生きるために働いているという地に足のついた雰囲気を吉沢は漂わせている。もらった役をいかに作家や演出家のビジョンにそって体現するか、そこにすべてを賭けている実直さ。ものすごく客観的に状況を見ている、ある意味醒めた視点。それが山田天陽にはぴったりだった。天陽が絵を無心で描いているときの、吉沢亮の表情のように、芝居に取り組んでいる印象がする。昨今、ドラマで人気が出ると、イケメンだからみたいなことでまとめられがちなのだが、イケメンといったって清潔感とか実直さ、素朴さ、クレバーさみたいなものを醸していないと愛されない。朝ドラに出て一気に伸びる俳優はたいてい、この、清潔感とか実直さ、素朴さ、クレバーさが思う存分出せた俳優だ。吉沢亮は申し分なかった。

 『あさイチ』(NHK総合)にゲストで出たとき、山田裕貴の撮った映像のなかでキレイな顔を思いきり崩して剽軽な顔をしているのもご愛嬌。賞味期限の短い若い美しさでなく、いい感じにおじさんになっていきそうな逸材だと思う。 

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮、清原翔/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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