『凪のお暇』のキーワードは「変わりたい女と変わってほしくない男」 原作を上回る慎二の存在感
しかも慎二は、1話で同僚に対して「空気は自分で作るものでしょ、読む側にまわったら負けですよ」と言っているにも関わらず、実際には誰よりも空気を読んでしまっているのが痛ましい。その結果、残業中の男だけのノリで、凪という彼女のことを「あっちがいいから会ってるだけ」と得意げに言ってしまうのだから、男同士の強がりの空気に迎合して自分の気持ちを封印していることにしかなっていない。
慎二は別の場面で、凪という彼女の存在を明かさないのは、友人が彼女と別れたばかりで言えなかったという。優しい空気の読み方をしているときもあるが、どっちにしても、彼が空気を積極的に読むのは、男同士のコミュニティに対してと、場を支配するためであると2話までの段階では描かれている。
凪は、そんな慎二から逃げてリセットしようとしているのだが、慎二が「リセットなんてさせない」とはっきり言うのは、完全に“呪い”としてとっていいだろう。凪は会社を辞め郊外に引っ越したことで、アパートの住人や単に合わせるだけでない友人ができ、変われる可能性が大きいが(慎二が追ってくることを除いて)、慎二がこのままでいることのほうが、重要な問題なのではないかと思えてくる。慎二の呪いこそなんとしてでも解かれなくてはならないものなのではないだろうか。
少しだけ慎二に救いがあるとしたら、凪のことが好きという気持ちが自分でわかっていることと、素直に泣ける気持ちと場所があるということだ。2話で慎二行きつけのバーのママ(武田真治)のセリフに「変わりたい女と変わってほしくない男」というものもあったが、その視点で本作を見ていくのもありかもしれない。
■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。
■放送情報
金曜ドラマ『凪のお暇』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、吉田羊、片平なぎさ、三田佳子、瀧内公美、大塚千弘、藤本泉、水谷果穂、唐田えりか、白鳥玉季、中田クルミ、谷恭輔、田本清嵐、ファーストサマーウイカ
原作:コナリミサト『凪のお暇』(秋田書店『Eleganceイブ』連載)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、山本剛義、土井裕泰
プロデューサー:中井芳彦
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/