『アラジン』も興行収入100億円の大台へ なぜ日本では音楽映画が大ヒットするのか?

音楽映画、なぜ日本で大ヒット?

『ロケットマン』

『ロケットマン』(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

 グラミー賞5度受賞、“ローリングストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大なアーティスト100”にも選出された伝説的ミュージシャン、エルトン・ジョンの数奇な人生をミュージカル仕立てで振り返る作品。メガホンをとったのは『ボヘミアン・ラプソディ』のデクスター・フレッチャー監督。エルトン・ジョン役を演じたタロン・エガートンが、厳しいボイストレーニングとピアノレッスンを入念に重ね吹き替え無しで挑んだという本作のパフォーマンス・シーンは批評家たちから絶賛を浴びており、カンヌ映画祭では5分間以上のスタンディングオベーションが起こった。NPR誌の批評によれば「単なる伝記の枠に収まらず、ミュージカル要素と真実のバランスが抜群」という本作は『ボヘミアン・ラプソディ』とはまた異なる、新たな音楽映画のフィールドを開拓する作品となるだろう。

『イエスタデイ』

『イエスタデイ』(c)Universal Pictures

 ザ・ビートルズの名曲で彩られるこの作品が興味深いのは、“もしも自分以外にザ・ビートルズを知らない世界になってしまったとしたら?”という少し変わったアイデアが基となっている点だ。イギリスの小さな町に住むシンガーソングライターのジャックは、ある日交通事故に遭い昏睡状態となってしまう。やがて目を覚ますと史上最も有名なはずのバンド、ザ・ビートルズが存在しない世界となっており、彼らの名曲を覚えているのはジャック一人だけだった。

 本作を手がけた『トレインスポッティング』『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル監督が「私にとってザ・ビートルズはとても大切な存在。ポップカルチャーに火をつけた彼らの偉業に影響を受けた世界で、今日の僕たちは生きているのです」と語るように、本作は史上最も世界に影響を及ぼしたバンドの“不在”を通じてポップカルチャーの持つ力を再考する音楽映画だ。キャストにヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズなどフレッシュな顔ぶれを起用し、イギリス出身の現代を代表する人気ミュージシャン、エド・シーランも出演していることも話題となっている。

『ダンスウィズミー』

『ダンスウィズミー』(c)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

 最後にご紹介するのは『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』の矢口史靖監督による日本発の最新ミュージカル映画。ミュージカルなんか全然したくなかったのにひょんなことからある日突然、音楽を聴くといつでもどこでも歌い踊ってしまう体になってしまった主人公のOL静香役を、人気アイドルユニットさくら学院出身の三吉彩花が軽快に演じる。

 予告編にもきこえる「そもそもミュージカルっておかしくない!? さっきまで普通にしゃべっていた人が急に歌い出したりしてさ」という静香の台詞は“そんなこと言ってしまったら元も子もない”という発想だが、普段ミュージカル作品に馴染みのない多くの人々が抱く正直な疑問でもあるだろう。あの独特なノリに抵抗があったという矢口監督自身、本作は「“ミュージカルだったら観ない”という人が楽しめる」と語るように、ミュージカル作品の常識にメタ的な視点を投げ込みながらも、歌って踊ることの楽しさを真っすぐに伝える“ハッピーミュージカルコメディ”となっている。

参照

https://www.theguardian.com/film/2019/may/24/rocketmen-raves-and-rhapsodies-how-the-music-biopic-became-a-hollywood-hit
https://www.rewire.org/living/rise-fall-rise-musical-film
https://www.entertainment-future-lab.net/en/2016/07/29/2102/
https://people.com/music/beyonce-lion-king-soundtrack-abc-news-special-sneak

■菅原 史稀
編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。Twitter

■公開情報
『ライオン・キング』
8月9日(金)全国公開
監督:ジョン・ファヴロー
声の出演:ドナルド・グローヴァー、ビヨンセ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/lionking2019.html

『ロケットマン』
8月23日(金)全国ロードショー
監督:デクスター・フレッチャー
脚本:リー・ホール
製作:マシュー・ヴォーン、エルトン・ジョン
キャスト:タロン・エガ-トン、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデン
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:https://rocketman.jp/

『イエスタデイ』
10月11日(金)全国ロードショー
監督:ダニー・ボイル
脚本:リチャード・カーティス
製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、マット・ウィルキンソン、バーニー・ベルロー、リチャード・カーティス、ダニー・ボイル
製作総指揮:ニック・エンジェル、リー・ブレイザー
出演:ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ケイト・マッキノン、エド・シーラン
配給宣伝:東宝東和
(c)Universal Pictures
公式サイト:https://yesterdaymovie.jp/

『ダンスウィズミー』
8月16日(金)全国ロードショー
原作・脚本・監督:矢口史靖
出演:三吉彩花、やしろ優、chay、三浦貴大、ムロツヨシ、宝田明
企画・制作プロダクション:アルタミラピクチャーズ
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2019「ダンスウィズミー」製作委員会
公式サイト:dancewithme.jp

■リリース情報
『ボヘミアン・ラプソディ』
Blu-ray&DVD発売中
2枚組ブルーレイ&DVD:¥4,700+税
4K ULTRA HD + 2D ブルーレイ::¥6,990+税
DVD:¥3,800+税

監督:ブライアン・シンガー
製作:グレアム・キング
脚本:アンソニー・マクカーテン
字幕翻訳:風間綾平
字幕監修:増田勇一
出演(吹替版声優):ラミ・マレック(櫻井トオル)、ルーシー・ボイントン(川庄美雪)、グウィリム・リー(北田理道)、ベン・ハーディ(野島裕史)、ジョゼフ・マゼロ(飯島肇)
2018年/アメリカ/原題:Bohemian Rhapsody
発売元・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン(株)
(c)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

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