現代に巣食う“社会的抑圧”に問題提起 映画3作に見る、ジェンダーロールに囚われた女性たちの姿

映画3作から考えるジェンダーロールによる抑圧

“結婚”という檻に住む女たち:『ニューヨーク 最高の訳あり物件』

 『ローザ・ルクセンブルグ』(1986年)『ハンナ・アーレント』(2012年)などで社会派ドラマの巨匠として名高いマルガレーテ・フォン・トロッタの最新作は、NYを舞台にしたコメディ『ニューヨーク 最高の訳あり物件』。マンハッタンの超高級アパートメントで暮らすモデルのジェイド(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)は夫のニック(ハルク・ビルギナー)から突然離婚を言い渡されてしまう。ジェイドが昔ニックを前妻から略奪したように、今度は若いモデルに彼をとられてしまったのだ。夫に未練のあるジェイドはそれでも気を取り直して、ファッションデザイナーとしてデビューする初のコレクションに集中しようとするが、ニックの前妻のマリア(カッチャ・リーマン)がジェイドのアパートメントに転がり込む。なんとニックは、前回の離婚の慰謝料としてマリアにアパートメントの権利を半分与えるという! 怒り狂うジェイドは、アパートメントを売りそのお金を折半しようとマリアにもちかけるが、彼女は頑として居座り、ジェイドの生活をめちゃくちゃにしてしまう。そのうちに、マリアとニックの娘アントニアと幼い息子まで居候することに……。

 以前から浮気がやめられないニックを許し続けて結婚に留まろうとするジェイドと、夫を奪ったジェイドを困らせるがためにアパートメントから出ていかないマリア。年も性格も正反対の彼女らに共通するもの。それは、“結婚”という檻。

 宗教の権威や共同体の概念が低下し、女性の社会進出が進み、非嫡出子の法的権利が嫡出子と同様に認められている現代のアメリカでは、結婚は社会的な意義を失ってしまったといっても過言ではないだろう。さらに今の長寿社会において、ひとりのパートナーに貞節を誓い、死が分かつまで添い遂げることは非常に難しくなっているのは誰もが認めるのではないかーー。

 それなのに、結婚という檻に囚われたジェイドとマリアは、捨てられた妻というレッテルに抗い、「妻らしく」いることから逃れられないように見える。リッチな年上男性と結婚したトロフィー・ワイフ的な偏見に対抗して自分のビジネスを立ち上げようとするジェイドと、高学歴なのに働いたことがなく無力感を感じるマリアの2人の葛藤を通して、「結婚したら子供をもつのが当たり前」「キャリアのない主婦は怠け者」という現代の価値観に女性ががんじがらめになっているところを、さりげなくコミカルに描写しているところに社会派監督フォン・トロッタの腕が冴える。

 加えて、「子供に父親が必要だと思っているのはアメリカ人だけよ」と笑い飛ばす娘アントニアを登場させている点もおもしろい。ヨーロッパ在住の彼女は、もしかしたら事実婚をしているのかもしれないが、息子の父親とも良好な関係を結んでいることも匂わせる。物語では、“結婚”という檻に閉じ込められていない彼女だけが、住むところも仕事も純粋に“自分らしさ”に添って選択するのだ。物語はあっと驚くような結末を迎える。あたかも現代の結婚制度の行く末を暗示するかのようにーー。

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