【ネタバレあり】『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』がヒーロー映画最先端となった理由

『スパイダーマン』新作はヒーロー映画最先端

 ここにきて、本作が扱おうとしているのが、現在のアメリカにおいて最も注目されているトピックのひとつである「フェイクニュース」についての問題だと思い当たる。

 先日、ワシントン・ポスト紙が、ドナルド・トランプ大統領の就任以来、同紙のファクトチェックによって、彼が嘘の発言をした回数が1万回を超えたことを発表した。驚くべき話だが、トランプは逆にこのような批判的な報道全般を「フェイク」と呼び、トランプ支持者のなかにも“偏向報道”によって大統領が貶められていると信じる人々がいる。つまり、互いが互いに嘘を言っていると主張し合っているのだ。アメリカの市民は、その渦中にあって、一人ひとりどう判断するのかを求められている。

 『アベンジャーズ』最終2作で描かれたのは、堂々と正義を名乗る悪が、まずアベンジャーズら正義のヒーローたちを、圧倒的な力によって屈服させ、失墜させていく姿だった。このような構図は、多くの人々が、何が正義なのかを見失いつつある現代社会を象徴しているように見えた。だが、そのように正義を騙る者の欺瞞を暴くことによって、“本当の正義は確かに存在する”という希望を観客に与えてもいるのだ。

 本作はその先にある、より具体的な問題に踏み込んでいる。つまり、サノスよりもより狡猾に、悪の側が意図的に虚偽の情報をばらまき、人々の“信じたい”欲望を刺激することで、大勢の人々を自分の嘘に引き込もうするというやり口である。そうなると世の中では、真の正義が悪と呼ばれ、悪が正義と呼ばれることになってしまう。

 では、そんな“正義が”転倒していく恐怖社会のなかで、正義はどう戦ってゆけばよいのだろうか。本作は、『ファー・フロム・ホーム(家から遠く離れて)』の名のとおり、単純な正義と悪の戦いから、ヒーローたちがあまりにも遠く離れてしまったことを意味しているようにも思える。

 フェーズ3から、新たなフェーズへ。その転換点となった本作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は、ヒーローにとってより困難な戦いの時代が幕を開けたことを予言しているように思える。その意味で本作は、真にわれわれを遠く離れた次の世界へと運ぶ作品となったのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』
全国公開中
監督:ジョン・ワッツ
脚本:クリス・マッケナ&エリック・ソマーズ
マーベル・コミック・ブック原作:スタン・リー、スティーヴ・ディッコ
製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
出演:トム・ホランド、サミュエル・L・ジャクソン、ゼンデイヤ、コビー・スマルダーズ、ジョン・ファヴロー、J・B・スムーヴ、ジェイコブ・バタロン、マーティン・スター、マリサ・トメイ、ジェイク・ギレンホール
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.spiderman-movie.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/spidermanfilmjp
公式Facebook:https://www.facebook.com/SpiderManJapan/

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