新海誠監督作『天気の子』は“雨”の表現に注目! 新旧アニメーションから“水”表現の変遷を紐解く

新旧アニメーションから“水”表現の変遷を紐解く

『海獣の子供』(c)2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会

 現在の日本のアニメーションは、あらゆる表現を、手描きとCG、どちらの手法でも選択することが可能である。なかでも、水のニュアンスを描くのには特殊なノウハウが必要になるため、そこだけ部分的にCGにする場合も少なくない。『海獣の子供』や『きみと、波にのれたら』などのハイクオリティーな作品では、かっちりと決められた手法というよりは、それぞれのシーンに必要なニュアンスを表現するため、もしくは千変万化する海の状態によって、アニメーターによる微細な作画に加えてCGやエフェクトが使用される。

『きみと、波にのれたら』(c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会

 新海誠監督は、『言の葉の庭』(2013年)に代表されるように、キャラクターよりも、むしろ背景や雰囲気などニュアンスを伝える方に重点を置くという特異な作家性を持っている。現在予告編などで発表されている『天気の子』の場面はやはり水が重要な要素となっているが、それを表現するために、エフェクトを加えるソフトによって映像の加工に入念な時間をかけた、場合によっては、元の作画が分かりづらくなるくらいに粘度のある画面を作っている。

 現在のディズニーとは異なる、このようなハイブリッドな手法が、日本のアニメーションの主流となっているのだ。その意味では、かつてのディズニーの手法を受け継いでいるのは、考えようによっては日本のスタジオの方なのかもしれない。とはいえ、前述したように、ディズニーはCGの新技術を次々に構築し、具体的な技術の資産を蓄積し続けている。それに対し日本のスタジオは、作画の面では徒弟的な、人間の身体に覚えさせていく、より職工的な技術が主流であり、一度業界自体が衰退すれば、一気に技術が失われていく危うさを持っているのは確かだ。

『天気の子』(c)2019「天気の子」製作委員会

 ディズニーを中心にアニメーションの潮流が激変していくなかで、岐路に立たされている日本のアニメ業界。アニメーションで“水”をどのように表現するか……そのこと自体は小さなことに見えるが、小さな部分に着目することで、それはより大きな状況を映し出す鏡となっていることに気づかされるはずである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『海獣の子供』
現在公開中
原作:五十嵐大介『海獣の子供』(小学館 IKKICOMIX刊)
キャスト:芦田愛菜、石橋陽彩、窪塚愛流、稲垣吾郎、蒼井優、渡辺徹、富司純子
監督:渡辺歩
音楽:久石譲
キャラクターデザイン・総作画監督・演出:小西賢一
美術監督:木村真二
CGI監督:秋本賢一郎
色彩設計:伊東美由樹
音響監督:笠松広司
プロデューサー:田中栄子
アニメーション制作:STUDIO4℃ 
製作:「海獣の子供」製作委員会 
配給:東宝映像事業部
(c)2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会
公式サイト:www.kaijunokodomo.com
公式Twitter:@kaiju_no_kodomo

『きみと、波にのれたら』
現在公開中
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子
音楽:大島ミチル
出演:片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:東宝
(c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
公式サイト:https://kimi-nami.com/
公式Twitter:https://twitter.com/kiminami_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/kiminami_movie

『天気の子』
7月19日(金)全国東宝系公開
原作・脚本・監督:新海誠
声の出演:醍醐虎汰朗 森七菜
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
音楽:RADWIMPS
製作:「天気の子」製作委員会
制作プロデュース:STORY inc.
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝
(c)2019「天気の子」製作委員会
公式サイト:https://www.tenkinoko.com/

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