新海誠監督作『天気の子』は“雨”の表現に注目! 新旧アニメーションから“水”表現の変遷を紐解く

新旧アニメーションから“水”表現の変遷を紐解く

 そんなディズニーは、アニメーションによるリアルな表現を駆使した世界初の長編映画『白雪姫』(1937年)をはじめとする傑作群によって、アナログな表現でも世界の頂点に立っていた。『白雪姫』での水の表現といえば、井戸の中に白雪姫が歌声を響かせるシーンが印象的である。水の中から白雪姫を見上げるという、当時アニメでしか表現が不可能だった奇抜な構図から、彼女の歌声が、目に見える波紋として描写されるという試みは、感動的なまでに美しい。このような場面を作るヴィジュアル・エフェクトという仕事は、アニメーションの表現を大幅に広げることとなった。

 ディズニーで、とくに水の表現に秀でたエフェクトアーティストといえば、『ピノキオ』(1940年)で、海の波の複雑な描写や、クジラが暴れる際の水しぶき、水中の見事な表現で台頭したジョシュア・メダーが挙げられる。『ダンボ』(1941年)でのリアルに映し出される雨、『南部の唄』(1946年)で水面に釣り糸を垂れる描写、『シンデレラ』(1950年)で無数に現れる泡などの充実した仕事によって、彼はアニメーション作品をより芸術的な領域へと高めていった。

 ウォルト・ディズニーの死後、低迷したディズニーのアニメーション映画を救うことになった大ヒット作『リトル・マーメイド』(1989年)では、『ピノキオ』でも見られた、海底に照らされるゆらめく光、舞い踊る泡、キャラクターの髪の動きなど、これまでのディズニー作品が確立してきた伝統的手法が多く活かされている。

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 それでは、日本はどうだったのか。「東洋のディズニー」を目指した東映動画では、『白蛇伝』(1958年)や『安寿と厨子王丸』(1961年)、『わんぱく王子の大蛇退治』(1963年)など、ディズニーの確立した優れた技術を学び利用しながらも、東洋美術のテイストをとり入れた作品を作り続けてきた。時代の流れのなかで、題材や表現から表面的な“東洋性”が抜け落ちていきながらも、宮崎駿もスタッフとして参加した、海の色をビビッドなライムイエローで描き出した『どうぶつ宝島』(1971年)などに代表されるように、水の表現において簡略化しつつも効果的に見えるような、日本独自の職人的表現というものが出来上がっていく。

 宮崎駿が東映動画退社後に初監督した映画作品『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)では、ルパンが侵入する水路の水の流れを見れば分かるように、ゆらめく線を走らせることで、移動する水をスマートに描き出すという洗練さを発揮している。このような技術は、後のスタジオジブリ作品の表現手法の基本となっている。

 そこでは、水の量によってその描き方が変化する。例えば、『となりのトトロ』(1988年)の、サツキの家の前を走る水路では、『ルパン三世 カリオストロの城』のように、その流れを線のニュアンスだけで表現するが、『魔女の宅急便』(1989年)や『紅の豚』(1992年)などで海を描くときは、不透明な“かたまり”として、適切な色をべたっと塗ることで、同じ水でも違う概念として描き出し、必要があれば水面に光の反射のエフェクトを加えることになる。現実の水の見え方というのは、このような表現とは異なるものの、アニメ独自の面白さとして理解され、支持されてきたといえる。

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