『海獣の子供』なぜ賛否を巻き起こす結果に? 作品のテーマやアニメーション表現から考察
賛否があぶり出した原作付き作品の課題
一つ気になるのは、本作と原作から与えられる印象が、あまりにも近すぎないかという点である。もちろん、原作の持ち味を消すような作品になってしまっては、原作つきのアニメーションを製作する意味はなくなってしまうかもしれない。しかし、本作は原作の美点をとり入れながら、その弱点も受け継いでしまっているように感じられるのだ。
具体的には、作者の思想を代弁しているように感じられる、常識を超越し、意味深なセリフを口走るような達観したキャラクターが、あまりに多すぎるという部分である。原作に馴染めないという読者が少なくないのは、この点が障害になっているからではないだろうか。ここで描かれる、作者の想いが優先され、理想化が徹底されている世界というのは、一見すると広大なもののように見えて、むしろ小さな箱庭のようなものとして映ってしまうところがある。そして、その狭い範囲に入り込めない読者は対象からは外れてしまうことになる。
アニメーション作品として、あらためて本作を作り直すのならば、そのような部分を改善するいい機会だったのではないだろうか。原作が、読む人を選ぶような、「クリエイターズ・クリエイター」としての作品になってしまっているように、めざましい改変を加えなかった本作もまた、その点において“観る人を選ぶ”作品になっていないだろうか。「そこがSTUDIO4℃らしい」と言ってしまっていいのかもしれないが、より地に足の着いた、人間的な登場人物を劇中で活躍させ、より観客に作品世界への興味を持たせる工夫をしたとしても、本作が失うものはあまりないように、少なくとも私には思える。
自然と人間との関係を、映像を中心にダイナミックかつ繊細に語っていく手法を、これまでの日本の漫画・アニメーションの、一つの到達点として提示する試み。そして同時に、謎めいた登場人物たちによって、スピリチュアルなメッセージが語られていく側面。この二つの要素をどう判断するかによって、本作の評価は変わってくるはずだ。
人気ある原作の映画化作品において、キャラクターを改変したり、設定を変化させると、決まって一部で叩かれることになるのは確かだ。しかし、作り手までもが、そういうファンと同じような視点から作品づくりを考えてしまっては、作品をより広い観客に届け、原作をさらに優れた領域へと押し上げるチャンスを逸してしまうことになる。せっかくなら、圧倒的な映像表現以外でも、新しく作品を作る意義を感じさせてほしい。この原作を、例えば宮崎駿監督が、あるいは湯浅政明監督が手がけたら、やはり原作とは違う印象のものがいろいろと生まれてくるのではないだろうか。それが監督の仕事における、一つの大きな役割であるように思う。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。
■公開情報
『海獣の子供』
全国公開中
原作:五十嵐大介『海獣の子供』(小学館 IKKICOMIX刊)
キャスト:芦田愛菜、石橋陽彩、浦上晟周、森崎ウィン、稲垣吾郎、蒼井優、渡辺徹、田中泯、富司純子
監督:渡辺歩
音楽:久石譲
キャラクターデザイン・総作画監督・演出:小西賢一
美術監督:木村真二
CGI監督:秋本賢一郎
色彩設計:伊東美由樹
音響監督:笠松広司
プロデューサー:田中栄子
アニメーション制作:STUDIO4℃
製作:「海獣の子供」製作委員会
配給:東宝映像事業部
(c)2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会
公式サイト:https://www.kaijunokodomo.com
公式Twitter:@kaiju_no_kodomo