『腐女子、うっかりゲイに告る。』純と紗枝に芽生えた感情とは何だったのかーー各々の未来に進んだ最終回を観て

『腐女子、うっかりゲイに告る。』最終回を観て

 他者を理解することは難しい。ほとんど不可能と言っていいのかもしれない。それでも、他者と共に寄り添い生きていくためには、理解していくことを放棄してはいけない。そのためにできるたったひとつのことが、自分はどういう人間なのか、何が好きで、何を想い、何を考えているのか、伝え続けていくことだ。

 誰より通じ合えたつもりでいたファーレンハイト(声・小野賢章)のことを本当にはわかっていなかったり。別の星の住民くらいにかけ離れていたように思えた小野(内藤秀一郎)が実はQUEENが好きという共通点でつながっていたり。人にはいろんな側面があって、自分に見えているものなんて、ほんの一部。世界を簡単にして理解したつもりでいたら、何も見えてはこない。摩擦を恐れず、空気抵抗を厭わず、踏み込んだから見えてくるものが、きっとある。だからこそ、面白いのだ、人と人が生きるということは。

 それを純に教えてくれたのが、紗枝だったのだろう。紗枝はいつだって純をわかろうとしてくれた。そして自分のことを知ってもらうために、まっすぐぶつかってきてくれた。あのBL本の大量攻撃も、終業式での一大演説も、腐女子であることをひた隠しにしていた頃の紗枝なら考えられないこと。でも紗枝は伝えたかった。自分が傷ついてもいいから、純に伝えたかった。あなたが好きです、ということを。生まれてこなければ良かったなんてことはない、ということを。

 純と紗枝の中に芽生えた感情は、恋とは違ったのかもしれない。確かに純は紗枝を抱くことはできなかった。でも「勃つ」とか「勃たない」とか、そんな世の中の普通に当てはめなくたっていいじゃない。たとえ世間のそれとは違ったとしても、確かにふたりの気持ちは結ばれていたと思いたい。

 だって、あんなに暗い目をしていた純が、紗枝と出会ってから、よく笑うようになったから。それも、とびきり優しい笑顔を。ずっと受け入れられなかった自分を、紗枝のおかげで受け入れることができた。そんな相手、人生の中でそう出会えない。たとえ離れて暮らしても、どれだけ時間が流れても、お互いに特別な存在なんだと思う、純と紗枝は。

 ラストシーン、純は新しい友達の前で何と自己紹介するつもりだったのだろう。あのあとに続く言葉が「ゲイです」でも「QUEENが好きです」でも、何でもいい。少なくとも彼が自分を偽らずに生きていけたら、それがいい。

 そして、純がいつか本当に大好きな人と出会って、結ばれて、結婚式を挙げる日が来たら、そのときは紗枝がお祝いのスピーチをしてほしい。きっと紗枝のことだから腐女子ネタ満載のスピーチになるだろう。それを聞いて笑っている亮平がいて、呆れながら肩をすくめている小野がいて、母の陽子(安藤玉恵)が目を赤らめながら拍手をしている。どこか別の場所でマコト(谷原章介)も家族と幸せな時間を過ごしながら、純の幸せを願っているかもしれない。そんな未来を夢見たくなるほど、純たちと過ごした日々は、僕にとっても愛しい、愛しい時間だった。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が1/30より発売。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』
NHK総合
※再放送:総合 毎週土曜 午前0時40分から1時9分(金曜深夜)
原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」
脚本:三浦直之
出演:金子大地、藤野涼子、小越勇輝、安藤玉恵、谷原章介 ほか 
演出:盆子原誠、大嶋慧介、上田明子、野田雄介
プロデューサー:尾崎裕和
制作統括:篠原圭、清水拓哉
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/fujoshi/

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