岡田准一主演『ザ・ファブル』にも抜擢 江口カンが語る、映画初監督作『ガチ星』を経て感じたこと
「福岡は、自分にとって逃れられないもの」
ーー安部賢一さん演じる主人公・濱島浩司は、息子との待ち合わせをよそにパチンコに行ってしまったり、喧嘩っ早いところもあったりと、言ってしまったらかなり「ダメな人」ですよね。
江口:そうですね。
ーーここまで「ダメ」さを徹底的に追求しようと思った理由は?
江口:僕自身は企画の段階では、ここまで「ダメさ」を押し出してはいなかったんです。だけど、脚本の金沢(知樹)くんが「この主人公をめっちゃダメなやつにしませんか?」って言ってきて、それは面白いなと。海外ドラマの『24 -TWENTY FOUR-』で、ジャック・バウアーの娘のキムっていう僕が好きなキャラクターがいるんだけど、こいつが本当にイライラさせるんですよ(笑)。こいつが動かなければ事件が収束するのに、こいつが動くもんだから話がややこしくなるっていう(笑)。こういう人ってドラマの中にいるとすごく話が面白くなるなと思って、世界一イライラさせる主人公にしようと濱島というキャラクターが生まれたんです。
そのことで結果的に、数多あるただのスポ根や再生の物語とは違う、この映画ならではの特徴ができたかと思います。「ずっとイライラする」「全然浮上しない」っていう(笑)。ただ、浮上しない中で時々ちょっと浮上したかと思えば、やっぱり浮上しない……という繰り返しを、飽きないものにしなきゃいけないということは意識しながらやっていました。浮上しないということが、物語が動かないということにならないようにしようと。
ーーキャスティングにおいて意識したことはありますか?
江口:台詞が少なめなので、「普段は静かだけどキレたら激しい」というギャップが面白い人と、どこかイライラしたものを持っている人がいいなと思いながら見ていました。まず、濱島のライバル・久松孝明を演じた福山(翔大)くんに関しては、純粋さと、ナイフのようなシャープさがあって、最初に見た時からほぼこの人だと決めていました。濱島の妻を演じた林田(麻里)さんは、キレ方で選びました。オーディションでは、理由なく瞬間的にどれくらいキレられるかを見ていたんですが、悔しさと悲しさが入り混じったキレ方がすごくいいなと思いました。安部さんは、何度も他のインタビューでネタにしているんだけど(笑)、お父さんが競輪選手で、自分も一時期競輪選手を目指していたという話も聞いていたので期待していたんです。だけど、とにかくベタな芝居をするんですよ。ええかっこしいなのかな。だから徹底的にかっこつけるのを排除して、10kgくらい太らせもしたし、かっこ良さをどうやって彼から剥ぎ取るかというのを一生懸命やっていました。
ーー撮影を通して、安部さんの変化は感じましたか?
江口:現場でも、彼の中にあるええかっこしいな部分がなかなか脱ぎ捨てられないので、ずっと厳しくやっていました。ですが、1回「あ、ちょっといいな」って思った時があって。「わかった!」って言って久松の病院から出て変な動きをして走り出すシーンがあるじゃないですか? あの時は、彼は脱ぎ捨てたなと思いながら見ていました。あのシーンの直前にパチンコ屋のシーンがあって、その時にチャラチャラした芝居をしていたので、すごく怒ったんですよ。「人間が何かに気づいたり、上の段階に到達するためには“狂い”が必要なんだ」「狂えるのか?」という話をした直後にあの走り出すシーンを撮ったんですが、あの動きは狂っていてよかったですね。
ーー「チャラチャラした芝居」というのは?
江口:安部さんだけじゃなく、他の役者さんでもあることなのですが、別の映画で観た、誰かのすごくかっこいい芝居の真似をやっちゃうんでしょうね、無意識に。それがつまらなかったんです。
ーー江口監督は『めんたいぴりり』でも福岡を中心に撮影し、『ガチ星』でも北九州の小倉を舞台にするなど、出身地である福岡での撮影に強いこだわりを感じます。
江口:ことさら福岡を宣伝したいみたいなことではなく、『めんたいぴりり』をやるちょっと前から、福岡と自分という切っても切り離せない関係については考えていたんです。好きで住んでいるというわけでも、何かに抗うわけでもなく、今も福岡に住んでいるだけと言ったらそれまでなんですが、だからこそ福岡は題材として常に置いておこうと思って、韓国との関係のことだったり色々調べ始めていた時期だったんです。福岡は、自分にとって逃れられないものとしてありますね。