『なつぞら』が教えてくれる“家族”の形 朝ドラ恒例の美味しい食べ物にも注目

『なつぞら』が教えてくれる“家族”の形

 ところで話は変わるが、『なつぞら』では舞台が十勝という土地柄、牛乳やアイスクリームやバターが随所で出てくる。例えばアイスクリームと言えば、泰樹(草刈正雄)が幼い頃のなつを「雪月」に連れて行ったときに食べさせた甘味である。「そのアイスクリームはお前の力で得たものだ」「堂々とここで生きろ」といった泰樹の言葉とともに送られたアイスクリームは、当時のなつが久々に心から堪能した“味”のひとつであった。あるいは、家出をしたなつが泰樹たちと再会し、柴田家の人々と「雪月」で食べたのもまた、アイスクリームであった。剛男(藤木直人)はそのアイスクリームの味を「平和の味がする」と舌鼓を打ち、牛乳嫌いの幼い夕見子(荒川梨杏)でさえも口にしたのだった。

 このほかにも、なつの演劇の発表日に提供される形で登場したアイスクリームであるが、この食べ物は実は『なつぞら』でちょっとした役割を担っている存在だったりして……。というのも、これまでの朝ドラでも、ある食べ物がヒロインとその家族や周りの人々を繋ぎ合わせていることがあるからだ。『半分、青い。』では、五平餅が作品の中で描かれ続け、その味を通して、ヒロインの鈴愛(永野芽郁)と祖父の仙吉(中村雅俊)、さらには師匠の秋風羽織(豊川悦司)との間にゆるやかな繋がりを生み出していた。あるいは、『まんぷく』では福子(安藤サクラ)と萬平(長谷川博己)が出会って間もない頃にラーメンを一緒に食べるが、以降ラーメンは作中の随所に登場し続ける。そしてそのラーメンの存在はやがて、萬平の一大発明のきっかけとなるのだった。

 口に運べばたちまち笑顔が零れると同時に、みんなと一緒に食べることでたちまち多幸感をもたらす食べ物。それは単に美味しさが詰まっているわけではなく、ある時にはヒロインとその家族にとっての思い出の“味”になるときもあれば、その後の人生で陰に陽にヒロインを支え続ける“味”になることもある。『なつぞら』ではバターを乗っけたホットケーキやじゃがいもも登場しており、何が本作の象徴的な“味”になるのかどうかはわからない。ただ、今後の『なつぞら』を見ていく上で、ヒロインと家族や友人を結び付ける存在としての食べ物に注目してみるのも面白いかもしれない。

(文=國重駿平)

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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