『Guava Island』は“資本主義と芸術”の物語に C・ガンビーノが活動終了を前に伝えるもの
「今宵はスピリチュアル・ナイト 俺たちは互いに感じ合う必要がある 電話を下げろ ここは教会だ」
『コーチェラ・フェスティバル 2019』のヘッドライナーを務めたチャイルディッシュ・ガンビーノは、自らの舞台を教会と定義した。ナンバーワンヒットを輩出し第61回グラミー賞主要部門に輝いた彼が、こうした宗教的モチーフを繰り出したことは初めてではない。2018年、NewYorkerにおける希少なインタビューにおいても、比喩ではあるが「自分をイエス・キリストのように感じる」と漏らしている。ドナルド・グローヴァーによるペルソナ、チャイルディッシュ・ガンビーノは、次なるアルバムでその役目を終える予定だ。そのためか、コーチェラの夜にリリースされた映画『Guava Island』も、ガンビーノ・プロジェクトの幕引きにふさわしい、まるで神話のような作品となっている。
『Guava Island』の物語はコンパクトだ。神々によって創られた楽園グアバ島は、島民に愛された青い蚕が争いの原因となって自由を失う。蚕を牛耳るレッド一族は、島民を無休で働かせつづけ、その権力の邪魔になりかねない存在は抹消する、独裁者のような資本家だ。そんな島で「自由」を求める音楽家が、ガンビーノ演じる主人公ダニ・マルーン。貨物倉庫で働きつつラジオで島民の癒やしとなる曲を流すダニは、夜どおしの祭りを計画する。もちろん、人々に「自由」を味あわせようとする彼のコンサートをレッドが許すはずもなかったのだが……。
リアーナやレティーシャ・ライトなどキャストも華々しい『Guava Island』を製作したのは、お馴染みグローヴァー組。監督のヒロ・ムライにはじまり、脚本担当ステファン・グローヴァーなど、ドラマ『アトランタ』、そして第91回グラミー賞を獲得した「This Is America」ミュージック・ビデオを手がけたクリエイターが揃い踏みだ。そのため、劇中披露されるガンビーノの楽曲群にも新たな意味が付与されることとなった。
劇中、レッド配下の貨物倉庫で働く男は、アメリカへの憧れを口にする。無休で搾取されつづけるグアバ島と異なり、アメリカは「誰もが自分自身のボスになれる国」……自分はいつかその自由の国で事業を始めるのだ。そう語って目を輝かせる男に対し、ダニは笑いながら否定の言葉を吐く。
「ここもアメリカだ グアバ島と同じ
アメリカとは概念だ 他人を稼がせ、おこぼれをもらう
それがアメリカ(This is America)」
男に睨まれるダニは、入管審査員のようなモノマネを始める。
「皆さん! パスポートを出して!
自由の国アメリカへようこそ あなたも自分のボスになれる……金を出せば」
勘のいい方ならもうおわかりだろう。ここから、ガンビーノ演じるダニによる「This Is America」パフォーマンスが始まる。いわば自作の翻案と言えるわけだが「アメリカ人による告発」とイメージされた原作と比べ、『Guava Island』版は「アメリカ外からの言及」のかたちをとっている。もちろん、グアバ島自体がアメリカのメタファーと受け取ることも可能だが、今回「コンセプトとしてのアメリカ」を持ち出したことによって「This Is America」という作品が持つ意味はさらに広がったと言えるだろう。