米セレブを取り巻くボディイメージ問題 『アイ・フィール・プリティ!』が描いた“2つの苦しみ”

米セレブが異を唱えるボディイメージ問題

 プロフィールでは写真が重要、それが良くないとライクもシェアもされないーーこれは映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』の主人公レネーが提唱する意見だ。女性は細くて美しくないと価値が認められない、それが彼女の持論なのである。反して、この主張と対極にある存在が、レネーを演じるエイミー・シューマー、および吹替担当の渡辺直美その人だろう。

 日米を代表するコメディアンであるシューマーと渡辺には共通点がある。まず、2人ともショービズ界における標準を上回るとされる(シューマーが言うには63kg以上の)体型でありながらトップに登りつめた女性スターだ。「多様な体型の肯定」を啓蒙するボディ・ポジティブ・アイコンの側面も強い彼女たちは、体型へのバッシング、いわゆるボディ・シェイミングに立ち向かうことも多い。例えば、渡辺の場合、GUCCIのInstagramに掲載された際に発生した体型バッシングに毅然と対応し「私の魅力はまだ2%しか出してない」と言ってみせた。一方、シューマーにも似たエピソードがある。あるデザイナーから水着姿を「豚」と侮辱された際、さらなる水着写真をアップして「私はいい気分」と反撃に出たのだ。また、好戦的な芸風を得意とするコメディアンとして、大袈裟に喝采してくるメディアへの揶揄も忘れない。

 「トップレスでコーヒーを持つ写真をアップしたの。そしたらメディアがあちこちで大騒ぎ! そして書かれてた、一番言われたくない言葉を……『ヌードだなんて、彼女はなんて“勇敢”なんだ!』」(Netflix『エイミー・シューマーのレザー製ですが何か?』より) 

 『アイ・フィール・プリティ!』は、ボディ・ポジティブ・アイコンであるシューマーと渡辺にぴったりな映画だ。主人公レネーは容姿コンプレックスを抱える自尊心の低い女性だったが、転倒事故に見舞われたことで「細身のセクシー美女に変身した」と思い込むハプニングが発生。瞬く間に自信たっぷりになったレネーは様々なチャレンジに挑み始め、仕事でも恋愛でも成功を掴んでいく。他人の目にうつる彼女は以前と変わらないため皮肉なサクセス・ストーリーだが、もちろん、これだけでは終わらない。自らを美人と認識したレネーは、元々持っていた「女性の価値は容姿」という価値観に傾倒していき、大切な友人を失っていく。明るいコメディながら示唆に富む物語ではないだろうか。容姿問題で悩み続けていた主人公は、そのコンプレックスを払拭して自信を手に入れたからこそ大切な人を失い、果てには自分自身を貶めていくのである。彼女は一体なにを克服すべきだったのだろうか?  その正体とは、エイミー・シューマー、および渡辺直美が日々闘っているものと同じなのではないだろうか。

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