『荒野にて』アンドリュー・ヘイが語る、孤立というテーマ 「自分にとってリアルな物語を語りたい」

『荒野にて』アンドリュー・ヘイ監督が語る

 『ウィークエンド』『さざなみ』のアンドリュー・ヘイ監督最新作『荒野にて』が4月12日より公開された。本作は、突然天涯孤独となった15歳のチャーリーが、殺処分が決まった競走馬ピートを連れ、自分の居場所を探し求める模様を描いた人間ドラマだ。

 今回リアルサウンド映画部では、ヘイ監督にインタビューを行い、原作ものの映画化に挑む際に大切にしていることや、イギリス出身の彼がアメリカでの撮影を通して感じたことなどについて語ってもらった。

「直感的にチャーリー・プラマーはこの役にパーフェクトだと思った」

ーー今回の作品はミュージシャンとしても活躍するウィリー・ヴローティンの小説が原作になっています。この小説を映画化することになった背景を教えてください。

アンドリュー・ヘイ(以下、ヘイ):実はウィリーの2007年の作品『The Motel Life』を読んだことがあって、彼の音楽も聞いたことがあったんだけど、この作品の原作となった『Lean On Pete』は僕のパートナーが読んでいたんだ。たしか『ウィークエンド』の取材を終えて家に帰ったら、彼が「この本すごくよかったから読んでみて」と渡してくれた。それで読んでみたら恋に落ちたよ。そこからすぐに作者にコンタクトを取って、映画化権を取得しようとしたんだけど、他のフィルムメイカーも興味を持っていて、何人かが映画化のアプローチをしていたんだ。幸運なことに僕たちが映画化権を取ることができて、前作『さざなみ』に取り掛かる前に脚本を書き始めたから、かなり長い時間をかけて制作したことになるね。

ーー映画化にあたって改変はどの程度?

ヘイ:基本的に原作を忠実に映画化しているよ。ただ、原作ものを脚色する際にいつも考えさせられるのは、どこを削るか。何百ページにもわたる小説を2時間の映画にするには時間が足りないからね。今回の場合、チャーリーの旅路を示すためにはどういうシーンが重要なのかを選んでいかなければならなかった。時には2人のキャラクターを1人にしたり、好きだけど落とさなければいけない場面があったりする。そういう作業にはいつも葛藤しているよ。撮影したけれど結局編集でカットしてしまったシーンもあるからね。原作が好きだから映画化するんだけど、原作とは全く違うものにしなければいけない面もあるんだ。それが映画づくりのすごく面白いプロセスだと思うよ。

ーー原作者のウィリー・ヴローティンから映画化にあたり何か要望などはあったのでしょうか?

ヘイ:ウィリーはとてもいい人で、いつも最終的には「君のプロジェクトだから好きなようにやって」と言ってくれたんだ。でも、僕にとっては、彼がこの作品に関わってくれることが重要だった。ウィリーはこの作品の世界や競馬場のことを一番よく知っている人だったから、脚本のドラフトが出来上がるたびに彼に送っていたんだ。彼は毎回メモをつけてくれて、「ここがいい感じだった」とか「ここはちょっと違う気がする」とアドバイスをくれたよ。それはものすごく助けになった。撮影現場にも来てくれたんだけど、彼は何も言わないんだ。でも彼がいたこと自体が助けになった。原作者にとっては、自分が書いた作品は子どものようなものだから、それを他人が映画化をするというのは難しい経験だと思うけど、ウィリーはすごく協力的でありがたかったね。

ーー主演のチャーリー・プラマーはオーディションによってチャーリー役に選ばれたそうですね。

ヘイ:彼を最初に見たのはオーディションで送られてきたテープだったんだけど、それを見た瞬間に彼はこの役にパーフェクトだと思ったんだ。なぜかを説明するのは難しくて、直感的にそう思ったんだよね。ニュアンスや繊細さが際立っていて、他の若い役者とは違う生き生きしたものを感じたんだ。その後、僕たちがまだキャスティングしている段階で、チャーリーが手紙をくれたこともあった。そこには、どうして彼がこの役をやりたいのかが書かれていたんだ。そこで面白いと思ったのが、彼がチャーリーのことを完全に理解していたということ。どうしてチャーリーが守られることを求めているのか、そしてこの作品が馬と少年の話ではなく、絶望的になるほど安定を求める少年の話だということをね。それでより彼に惹かれたわけだけれど、それと同時に神経質になっていたのも事実なんだ。当時、彼はまだそんなに有名な役者ではなかったからね。映画のほぼ全てのシーンに出ていて、撮影も長期間になるということで、大役を務めることができるのか心配でもあったんだ。ただ、撮影初日から彼はクロエ・セヴィニーやスティーヴ・ブシェミと同じぐらいプロフェッショナルで、撮影が始まってますますその凄さに感心したよ。

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