『ダンボ』『アラジン』『ライオン・キング』も 実写制作の増加から考えるディズニー作品の未来

実写制作から考えるディズニー作品のあり方

 続く、『眠れる森の美女』(1959年)を実写化した『マレフィセント』(2014年)は、批評家に嫌われた作品だ。有名な悪役マレフィセントを、アンジェリーナ・ジョリーが演じ、同情的に描くというコンセプトは面白かったが、コメディーの要素を強めようと意外性をねらったとはいえ、オーロラ姫を助ける妖精たちをただろくでもない存在として描くなど、アニメーション版への敬意が欠けたものになっていた。

 たしかに、アニメーション版と全く同じようなものを実写にそのまま再現するのでは芸がないかもしれない。そこで“新解釈”という発想が出てくる。とはいえ、もとの作品を足蹴にしてしまうのでは、ファンに不満を与えてしまうことになる。これは本来のディズニーの望む方向ではないだろう。このあたりが実写化企画の難しいところだ。

 その後、ディズニー・クラシックの実写化は、基本的にはアニメーション版の価値観に沿ったものとなる。『シンデレラ』にはケネス・ブラナー監督(『フランケンシュタイン』)、『ジャングル・ブック』にはジョン・ファヴロー監督(『アイアンマン』)、『美女と野獣』にはビル・コンドン監督(『ドリームガールズ』)、『プーと大人になった僕』 にマーク・フォースター監督(『ネバーランド』)と、実績あるスタッフに予算をかけたリメイクを撮らせるという流れが出来上がってきた。

 『ピートとドラゴン』(1977年)は、厳密には『メリー・ポピンズ』(1964年)と同じく、実写映画として撮られた、もともと「ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ」作品だが、これをデヴィッド・ロウリー監督(『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』)がリメイクした傑作『ピートと秘密の友達』(2016年)も、ここで挙げておきたい。

『ダンボ』(c)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved

 そこでは、キャストの見せ場など、実写版ならではの新たな魅力を創出し、オリジナル作品よりも時代に沿った表現をすることができるという強みもある。『アリス・イン・ワンダーランド』や『ダンボ』では、自立心の強い女性が、自分の能力を発揮して成功する描写がある。これらの作品を見ることで、勇気を与えられる観客は少なくないだろう。

 しかし、このような流れが支持され、安定した興行収入が確保できた大きな理由は、ディズニーのアニメーション作品を、映画やビデオなどで何度も何度も繰り返し見てきたファンの存在がある。子どもの頃の郷愁を求めて名シーンの再現に涙したり、自分の子どもに劇場で同じ感動を味わってもらいたいと思う人たちだ。それはまた、ディズニーの先人たちの努力や、テーマパークなどで作品ごとのイメージをブランド化してきたことで生まれた、ディズニー全体の財産でもある。

『メリー・ポピンズ リターンズ』(c)2018 Disney Enterprises Inc.

 現在の製作ラッシュは、その財産を使用してしまっていることを意味する。オリジナル作品の間にバランスよく組み込むのではなく、現在の、とにかく連続して作り続けられ、観客がそれを楽しむというサイクルは、ディズニーに長い歴史と魅力的な作品群があるとはいえ、永遠に続けられはしないだろう。新たな時代を作るには、『メリー・ポピンズ』や『トロン』のように、「ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ」から発信する作品も必要なのだ。

 伝統を守るだけでなく、新たな価値、キャラクター、そして世界を生み出す。ウォルト・ディズニーの持っていた挑戦心と、志が高く才能あるクリエイターを見抜き、イマジネーションを最大限に爆発させられる環境を整え、新しいオリジナル企画を進めること。いままでの財産を使って得た利益は、そこに投入してこそ、「ディズニー」の名を継ぐ企業の姿勢たり得るのではないだろうか。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ダンボ』
全国公開中
監督:ティム・バートン
出演:コリン・ファレル、エヴァ・グリーン、マイケル・キートンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/dumbo.html

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