上白石萌歌と田辺誠一を対の存在として描いた理由 『3年A組』に込められた現実世界への祈り
『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)が終わった。このドラマの面白さは、時に引っ掛け問題あり、荒唐無稽で遊び心たっぷりの、リアリティとは正反対の方法論を用いて視聴者参加型の「エンターテインメントショー」として物語を見せるところにあった。その一方で、時代遅れではないかと思うほど真摯で真っ当で、暑苦しいほど魂のこもった言葉を、何度も何度も必死でぶつけてくる部分に多くの視聴者が夢中になった。
「上辺だけじゃなくて、本質から目を背けるな」と何度も繰り返されてきた菅田将暉演じる柊の台詞そのままに、このドラマは、かっこつけた上辺に、泥臭い本質を隠した。「明日への活力」という、真っ当すぎてひねくれ者が少しばかり照れてしまう言葉を連呼した、このドラマの得体のしれない熱さこそ、私たち視聴者の心を揺り動かしたのである。
まず、このドラマがメディアリテラシーの大切さを説いたものである前に、とても優れた青春ドラマであったことを、これから益々活躍していくのだろう多くの若手俳優たちの熱演に対する賞賛と共に言及しておきたい。
最終話、彼らは柊によって守られた世界である教室から、理解ある大人・郡司(椎名桔平)の助けを借りて、自ら危険な外の世界へと飛び出す。そして飛び降りようとする柊の手をすんでのところで掴み、茅野(永野芽郁)の心と柊の身体の両方を救ったシーンに、なによりグッときた人は多かったのではないだろうか。
一方でちゃんと現代を描いた社会派ドラマでもあった。ネットの炎上とフェイクニュースを扱ったドラマとしては昨年放送の野木亜紀子脚本の『フェイクニュース』(NHK総合)や井上由美子脚本の『炎上弁護人』(NHK総合)が挙げられる。前者は、ヒロイン自身も踊らされかねない、ネットの怪物的怖さを見せ、後者は、SNS社会の恐ろしさの奥にある人間の優しさを最後に呈示することで希望を見せた。そして、武藤将吾脚本の『3年A組』は、同じ炎上とフェイクニュースを扱った上で、カメラの向こうにいる視聴者に向けて、真正面からネットリテラシーの大切さをぶつけた。まさに“ド直球”の大演説をやってのけたのである。
このドラマは、カメラや登場人物たちの目によって切り取られた断片的な事実を繋ぎ合わせることで、真実が少しずつ見えてくる「目」のドラマであった。そして、景山澪奈(上白石萌歌)を中心として何層もの「見られる」構造からなるドラマでもあった。その外側に、最後に暴かれたこの事件の“真犯人”であるSNSのユーザーたちの目があり、さらにその外側に、私たち視聴者の目があったことは言うまでもない。