生田斗真の笑顔と涙が心を揺さぶる 『いだてん』四三と弥彦を支える家族の思い

『いだてん』生田斗真の笑顔と涙が心を揺さぶる

 一方、弥彦は出発直前にも関わらず、母・和歌子と兄・弥太郎にオリンピック出場について話をしていなかった。女中のシマ(杉咲花)が何も言わずに出発するのかと心配するも「余計なお世話、だな」と話す気はないことを態度で示す。和歌子も和歌子で、弥彦の帰りが遅いことをシマから伝えられると「弥彦は三島家の恥」と言い捨てる。

 四三の家族とは対照的な三島家の関係。しかし第7話では、写真を現像する弥彦が母の写った写真を現像して微笑むシーンがあった。母親の写真を見つめる弥彦の表情は穏やかで、口では「母は兄に、兄は金にしか興味がない」と言いながらも家族を大切にしている様子が分かる。

 出発の日、弥彦が汽車に乗り込む際、誰かを探すようにあたりを見渡すシーンがある。ほんの数秒のシーンではあるが、家族にオリンピック出場を認めてもらえぬまま出発する弥彦の心残りが伝わってくる。しかしその直後、シマが大声で弥彦を呼ぶ。弥彦の目に映ったのは、シマと弥太郎に抱えられながら駆けつけた和歌子の姿だった。和歌子は弥彦にかけ寄ると弥彦の手をしっかりと握り「三島家の誇り」と伝える。和歌子が手渡したのは、日本国旗が縫い付けられた競技服だった。「弥彦は三島家の恥」と言い捨てたとき、彼女は白い布地の服に何かを縫い付けているようだった。口では「恥」と言い捨てながらも、和歌子は陰ながら弥彦を応援し続けていた。

 白石は、和歌子が弥彦を「三島家の誇り」と発するまで、彼女の持つ凄みだけを漂わせていた。しかし弥彦を見送る和歌子は涙で顔をくしゃくしゃにし、何度も息子の名前を呼ぶ。母親としての彼女の思いを、我が子を見送るシーンの全てにぶつけた白石の演技はとても魅力的だ。

 駅が遠ざかった後、弥彦は母から手渡された競技服に顔をうずめて涙を流す。終盤、記者たちに取材される弥彦は普段通りの姿に戻っていたが、見送りに来た母に手を振り返す弥彦の笑顔は、母を思う息子の顔だった。弥彦の家族への思いが詰まった笑顔と涙は、視聴者の心に強く印象を残したに違いない。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45 
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45 
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる