『家売るオンナの逆襲』も好調 “生身の女”ではない、“ロボット型ヒロイン”の時代は続く!?

“ロボット型ヒロイン”の時代は続く!?

 また「ロボットみたいに感情のない人だと思ったら、実は良い人だった」という意外性で、見る人の心をつかむこともできる。『ドクターX』は未知子が難病の少女を救おうとしたり、親しい人の手術を控え自信を失くしたりという展開でぐっとドラマを盛り上げたし、『義母と娘のブルース』でも、亜希子が夫の葬儀で初めて涙を見せて泣き崩れるという展開が感動を呼んだ。初期設定が無機質だからこそ、「このヒロインも人間だったんだなぁ」と驚きを与え、そのギャップによって、普通に人間味のある女性が泣くよりもずっと感動的に描けるのだ。

 そして、少しうがった見方になるが、ロボット型ヒロインのドラマが見やすいのは、成人女性でありながら「性」の要素が排除されるからではないかとも考えられる。男の部下に腹踊りの模様を書かせても平気な『義母と娘のブルース』の亜希子もそうで、彼女は佐藤健演じる年下のイケメンからの告白を受け入れなかった。『ドクターX』でも未知子の恋愛要素は描かれなかった。『家政婦のミタ』の三田には結婚にまつわるちょっとありえないぐらい壮絶な過去があり、もう男なんてこりごりという感じだった。

 逆に今、成熟した女性は多くの人の共感を呼びにくい。例えば『獣になれない私たち』(日本テレビ系)のヒロインは彼氏と「やってます」と明言し、別れた後、もうひとりの男ともそういう関係になり、アラサーの恋愛事情としてはリアルだったと思うが、ヒットはしなかった。『中学聖日記』(TBS系)で吉田羊が演じた原口は、自己責任で恋愛を楽しむ海外ドラマに出てくるような女性だったが、こちらも数字としては振るわなかった。もしかすると、日本の視聴者はドラマでリアルな恋愛なんて見たくなくて、むしろロボット型ヒロインを見ている方が安心できるのかもしれない。

 しかし、ここにきて意外な展開を見せているのが『家売るオンナの逆襲』の万智である。初回から無表情のまま夫の屋代に「課長、今夜は燃えましょう!」と宣言する場面が描かれ、屋代も万智との性交渉があることを告白。ここはさすが『セカンドバージン』(NHK)、『セカンド・ラブ』(テレビ朝日系)、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)などで性愛を描いてきた大石静脚本。他のロボット型ヒロインがその問題を避ける中、「当然あるでしょ」と言わんばかりに性欲という要素をプラスしてきた。さらに、万智が意外にも小学生時代は「ひょうきん者のマンチッチ」と呼ばれていた過去も明らかになり、屋代が万智とは正反対の人間味あふれる女性・三郷(真飛聖)と急接近したことでも動きがありそう。果たして万智は夫に対して弱みを見せ、心を開くのか? ロボットから本来の性質であるひょうきん者への回帰があるのか? そしてロボットではなくなるのか。前クール『大恋愛~僕を忘れる君と』でも難病ものという敬遠されがちな悲劇を明るさとユーモアを交えて描き、視聴者を惹きつけることに成功した大石だけに、そこの決着をどうつけるのかが楽しみだ。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
『家売るオンナの逆襲』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:北川景子、松田翔太、工藤阿須加、イモトアヤコ、鈴木裕樹、本多力、草川拓弥、長井短、千葉雄大、臼田あさ美、梶原善、仲村トオル
脚本:大石静
主題歌:斉藤和義「アレ」(スピードスターレコーズ)
音楽:得田真裕
演出:猪股隆一、久保田充
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:小田玲奈、柳内久仁子(AXON)
協力プロデューサー:水野葉子
制作会社:AXON
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/ieuru_gyakushu/
公式Twitter:@ieuru2016

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