今期、もっとも観るべきドラマは? ドラマ評論家が選ぶ、2019年冬ドラマ注目作ベスト5
4.『フルーツ宅配便』(テレビ東京系)
『フルーツ宅配便』はデリヘル嬢を主人公にした一話完結の群像劇。演出には映画『凶悪』などで知られる白石和彌が参加しており、完成度の高いストーリーが毎週展開されている。物語は淡々と進み、デルヘル嬢を主人公にしていても、安易なお色気は登場しない。背景に貧困問題が見え隠れするものの、単純な被害者として描いているわけでもない。一人一人が背負っている物語は各自バラバラで、見終わった後で一番考えさせられるのは、同じデルヘル嬢でも、いろんな境遇の人がいるという多様性である。言葉にすると陳腐だが、人間としてのデリヘル嬢が丁寧に描かれていることが、本作最大の魅力である。
5.『絶対正義』(東海テレビ・フジテレビ系)
『絶対正義』は昨年、『結婚相手は抽選で』を放送した東海テレビ制作の「オトナの土ドラ」枠で放送されている作品。主演は『ブラック・スキャンダル』(日本テレビ系)等の作品で再ブレイクしている山口紗弥加。物語は同じ高校出身で現在、別々の境遇にいる30代女性の群像劇だが、第一話では彼女たちの高校生時代が描かれた。この第一話がめちゃくちゃ面白かった。演出は『コード・ブルー』(フジテレビ系)シリーズで知られる西浦正記。テロップを多様したケレン味たっぷりの演出でテンポよく見せることで、高槻(山口紗弥加)の過剰な正義感の異様さを際立たせることに成功している。まだ導入部なので、この面白さが今後も続くかどうかは若干不安だが、それでも主人公の高規範子の学生時代を演じる白石聖の存在感は凄まじいものがあり、彼女の怪演を見られただけでも、この第一話の価値はあったと言える。
ベスト5に入れたドラマはすべて群像劇で、多様な価値観を複数の視点で描いたものほど魅力的に感じた。「多様性が大事」と言うのは簡単だが、それを表現するためには、複数の登場人物の視点と安易な結論を出さない粘り強さが必要となってくる。それはわかりやすさとは対極にあるスタイルだが、時代に対応した作品がこうして生まれていることは喜ばしい限りだ。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。