『世界でいちばん悲しいオーディション』監督インタビュー
岩淵弘樹監督が振り返る、全身全霊を懸けた1週間 「“変化と順応”がこの作品のテーマ」
渡辺さんは「悲しさ」大切にしている
ーー本作の面白いところは、24名の参加者がいるにもかかわらず、個人が記憶に残るというよりは、あくまでこのオーディション自体が印象に残っているところです。
岩淵:定番のドキュメンタリーの作り方でいけば、合格者、不合格者からそれぞれ密着する人を決めて、“主人公”を3人ぐらい立てる形になるかと思います。ただ、そういったピックアップではこのオーディションから見えてくるテーマが狭まってしまうと思いました。連続ドラマのように1時間×12本のような分量で参加者全員を描けるなら別ですが、映画という約2時間のフォーマットでは当然それはできない。それならば構造として映画『バトル・ロワイアル』のように42人のクラスメイトを描き分ける方法はないかと考えました。『バトル・ロワイアル』は藤原竜也さんという主役はいますが、彼が映っていないシーンでもほかのクラスメイト同士の殺し合いを描いていきます。でも、その戦い方や死に様は覚えているのに、そのキャラクターの名前はほとんど覚えていない。毎日何人か脱落していく、というフォーマットは今回の合宿とも共通していたので、個人を描くのではなく、その“戦い様”が記憶に残るようにできればと思っていました。
ーーそして、オーディションの合格者たちはWACKの各グループに所属して活動を続けています。現在のアーティスト写真を見たらこれまた別人のような存在感になっていてびっくりしました。
岩淵:合格がゴールではなく、むしろその後の方が厳しい。本作を作っていて感じたのは、合格者たちも決して「幸せ」ではないということです。受かればアイドル活動として地獄のようなあの合宿が毎日続いていくのと同じとも言えるわけで、逆に不合格者たちには別の道が用意されたとも言える。当たり前なんですが、アイドルになれなくても人生は続いていきますから。合宿中は参加者たちに渡辺さんがすごく厳しい言葉をかけていますが、それが実は何よりもの優しさなんですよね。三島由紀夫の『不道徳教育講座』で語られていますが、学生にとって教師は厳しい存在に思えるかもしれないけど、社会のほうが何よりも厳しいのだと。世間は残酷で責任も取ってくれません。その意味で、あれだけきつい言葉をかけていた渡辺さんは、誰よりも優しいなと編集をしながら感じたところでした。
ーーその一方でちょっと面白い絵になっているのが、不合格者を告げた後、決まって渡辺さんがトイレの便座に座ってコメントをしている姿です。ものすごく良いことを言っているのに、状況と合っていないミスマッチさが強く印象に残りました。
岩淵:不合格者を告げた後は、その場にいたくないと思うほどすごく嫌な空気になります。映画の中では描いていないですが、渡辺さんは参加者たちに「30分はここにいろ」と言うんです。この超重い空気を身体に染み込ませろと。そんな重苦しい空気を変えたくて、渡辺さんにトイレに行きませんかと外に連れ出して、撮ったのが始まりでした。だからウケ狙いで入れたというわけではなく、映画を観る方にとってもあのシーンが空気を変えるものになればと。
ーータイトルに「世界でいちばん悲しい」を入れるのは最初からイメージされていたのですか。
岩淵:タイトルのイメージはなかったのですが、自分の中のエンディング曲はありました。現在のものよりもっとメロウな曲で、その最後の歌詞が「大切なのは悲しみだ」でした。露悪的な残酷ショーにするのではなく、悲しみを忘れないようにと気をつけて編集していました。ただ、その曲をエンディングにするとちょっとメロウすぎて。最終的に、BiSの「TiME OVER」に決まり、ただ悲しいではなく前に進んでいく、というメッセージになっていたのでこれで良かったなと思ったんです。で、タイトルが無い状態で渡辺さんに本編を送ったところ、『世界でいちばん悲しいオーディション』というアイデアが届き、これでいきましょうと。
ーー岩淵監督と渡辺さんでどこかシンクロするものがあったと。
岩淵:なんでしょうね。渡辺さんの表現しているものは「悲しさ」を大切にしていると思っています。だから、オーディションに集まった女の子たちのように学校で孤立していた子にもWACKの楽曲は共感されるんだと思います。「悲しさ」があるから強くなれる。
(取材・文=石井達也/写真=池村隆司)
■公開情報
『世界でいちばん悲しいオーディション』
テアトル新宿ほか、全国順次公開中
監督・撮影・編集:岩淵弘樹
プロデューサー:渡辺淳之介
撮影:バクシーシ山下、西光祐輔、白鳥勇輝、エリザベス宮地
出演:オーディション候補生、モモコグミカンパニー(BiSH)、パン・ルナリーフィ(BiS)、ペリ・ウブ(BiS)、キャン・GP・マイカ(GANG PARADE)、BiSH、BiS、
GANG PARADE、EMPiRE
配給:松竹メディア事業部
2018年/98分/ヴィスタサイズ
(c)WACK INC.
公式サイト:http://sekakana-movie.jp
公式Twitter:@sekakana_movie
WACK公式サイト:https://www.wack.jp