米セレブを取り巻くボディイメージ問題 『アイ・フィール・プリティ!』が描いた“2つの苦しみ”
『アイ・フィール・プリティ!』は「女性の価値は容姿」とする抑圧やボディイメージの問題を扱う映画だ。ここで特筆すべき点は、2018年に公開されたこのアメリカ映画が「美人とされる女性たち」の苦悩も描いていることだろう。本作における「美人」な女性キャラクタは、ミシェル・ウィリアムズ演じる高級化粧品企業の社長エイヴリー、エミリー・ラタコウスキー演じるモデルのマロリーだ。容姿コンプレックスを持つレネーからしたら完全無欠の存在なわけだが、本人たちからしたらそうではない。エイヴリーもマロリーも「頭が悪い」と思われることに悩み、自信を喪失しているのだ。劇中、レネーは「セクシーな女こそ男にモテる、パーソナリティなんて誰も気にしない」と主張していたが、その思想の裏側には、マロリーたちを傷つけた「美しくかわいい女性は頭がからっぽ」という偏見が潜んでいたのかもしれない。「女性の価値は容姿」とする向きの強い社会において、見た目に自信のない主人公は大きなコンプレックスを抱えるが、一方で美しいとされる者たちも別の女性蔑視に苦しめられているのだ。
美しいとされる女性たちも性差別に悩んでいるーーこのことは、近年アメリカのセレブリティが進んで発信している事柄だ。例えば、劇中「美人の象徴」として挙げられる人気セレブリティであるジジ・ハディッドとセレーナ・ゴメスにしても、激しい体型バッシングに遭った経験を告白しており、ボディ・シェイミングの問題性を啓蒙し続けている。マロリーを演じたエミリー・ラタコウスキーもそうした活動で有名だ。ボディイメージや政治の問題について度々語ってきた彼女は、自分のことを「セクシー“だけど”政治に詳しい」と紹介するメディアは性差別的だと苦言したこともある。映画で描かれたマロリーの苦悩は、演者自身の経験でもあるのだ。さらに、ラタコウスキーは、エイミー・シューマーと似た経験を持っている。2人とも、ハリウッドにおいて体型を理由に「役はない」と言われ続けてきた女優なのだ。ラタコウスキーは「セクシーすぎて」、シューマーは「痩せないと目障りだから」役は与えられないと言われ続けてきたと明かしている。
2018年のアメリカでは、それこそエイミー・シューマーからエミリー・ラタコウスキーまで、様々な女性セレブリティが性差別やボディイメージ問題について発信している。そんな中、一般的に理想的容姿とされる女性とそうでない女性、その両方の苦しみを提示した『アイ・フィール・プリティ!』は、ラブコメディの定番でありつつ時勢を反映したポップカルチャーとも言える。女性同士の対立や分断を避け、依然としてはびこる性差別や抑圧を「みんなの問題」と捉えることで個々人を肯定しようとするその姿勢はポスト#TimesUp的と言えるかもしれない。「マッチョな男らしさ」に馴染めない男性が描かれる点もポイントだろう。映画のハイライトとなる主人公のスピーチは、女性たちはもちろん、観客全員に向けられているのではないだろうか。
参考
・https://people.com/movies/amy-schumer-says-she-was-instructed-to-lose-weight-for-hollywood/
・https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/a248732/cce-emily-ratajkowski17-0705/
■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。
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ツイッター:https://twitter.com/ttmjunk
■公開情報
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』
全国公開中
監督:マーク・シルヴァースタイン&アビー・コーン
出演:エイミー・シューマー、ミシェル・ウィリアムズ
提供:REGENTS/VAP
配給:REGENTS
2018年/アメリカ/英語/原題:I Feel Pretty
Motion Picture Artwork (c)2018 STX Financing, LLC. All Rights Reserved. (c)MMXVIII Voltage Pictures, LLC. All rights Reserved.
公式サイト:http://ifeelpretty.jp