『このマンガがすごい!』松江哲明監督が語る、蒼井優と挑んだ“ひと夏の記録”「役者さんたちの凄さと面白さを知った」

『このマンガがすごい!』松江哲明監督が語る

 宝島社が発表する、各界の漫画好きが本音で選んだその年の“すごいマンガ”ランキング書籍『このマンガがすごい!』。そのタイトルを冠したテレビ東京ドラマ25『このマンガがすごい!』が現在放送中だ。

 本作は、女優・蒼井優をナビゲーターに、毎回ゲスト出演する役者たちが自ら実写化したいマンガを選び、今まで培った独自の役作りで、キャラクターと一体化するまでを追った挑戦の記録だ。森山未來、東出昌大、森川葵、でんでん、中川大志、平岩紙、山本美月、塚本晋也、新井浩文と山本浩司、神野三鈴という多種多彩なゲスト陣。彼らが挑んだ“実写パート”の面白さ、そしてそれ以上に普段見ることはない役者たちの素の顔を引き出したドラマとして、視聴者を惹きつけてきた。

 リアルサウンド映画部では、本作を手がけた松江哲明監督にインタビュー。企画の誕生から、ナビゲーターに蒼井優を抜擢した理由、そして最終回の見どころまでたっぷりと話を訊いた。

マンガを語る中で見えた役者たちの“素”

ーー『このマンガがすごい!』を実写化すると聞いたとき、「一体何を実写化?」という疑問がまず浮かびました(笑)。最初の企画の経緯から教えていただけますか。

松江哲明(以下、松江):『映画 山田孝之3D』で“マンガのコマに入る”という手法を取り入れ、マンガの擬音やセリフをすべて山田くん1人で担当したのですが、その時の衝撃が大きかったです。それと『山田孝之の東京都北区赤羽』『山田孝之のカンヌ映画祭』(ともにテレビ東京系)を作る中で、役者の話を聞くのがとても新鮮だったというのがあります。昔から映画や小説でも“バックステージもの”というジャンルはありますが、きらびやかな世界にいるように見える役者たちが、どんなアプローチで役に挑んでいるのか、演じているのか、それを垣間見ることは誰にとっても興味深いものになるのではないかと。まず、マンガのコマの中に入ること、そして役者さんの役作りの過程を見せること、このふたつがスタッフの共通認識としてありました。そこで企画書を書いてもらったのですが、最初は「ザ・マンガ」とか「実写化」とか、もっと曖昧なタイトルでした。どうもピンとこないな、とスタッフと相談していたのですが、プロデューサーからヤケクソのような形で「『このマンガがすごい!』はどうですか」と意見がありまして、「それだ!」と(笑)。そこから宝島社の編集部の方たちに許可をいただいたんですけど、意味がまったく分からないという感じでした(笑)。

ーー「マンガは特に読まない」と語っていた蒼井優さんがナビゲーターを務めたことも意外でした。

松江:本作の主役はマンガと役者。ゲストにマンガを語ってもらう一方、役者としての側面を引き出してくれる人を探していました。そこでプロデューサーから以前、作品作りを一緒にしたことがある蒼井さんはどうか、という案がでて、ちょうど『彼女がその名を知らない鳥たち』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞された直後だったこともあり、ぜひお願いしたいと思いました。受賞された時の「学校がつらい方、新しい生活どうしようと思っている方がいたら、ぜひ映画界へ来てもらいたい」という言葉が素敵だったので、そんな想いを持つ蒼井さんが役者さんと向き合い、マンガや芝居の話をする時間を撮りたいと思いました。実際、撮影をしながら芝居、そして役者が本当に好きなんだな、と実感させられました。この企画は蒼井さんがいてくれたからこそ成立しましたし、ゲストの方々が出演を決めてくれた理由のひとつに蒼井さんの存在も間違いなくあったと思います。

ーー中川大志さん、森川葵さんら勢いに乗る若手俳優から、森山未來さん、東出昌大さんらといった映画・ドラマに引っ張りだこの俳優、そしてでんでんさんや神野三鈴さんまで、本当に多種多彩なゲストたちです。どういったイメージでキャスティングしたのでしょうか。

松江:一言で表現するなら、「大作映画のようなキャストの並び」でしょうか。蒼井さんが主役だとしたら、その相手役として森山さんと東出さんがいる。もうひとりのヒロインとして山本さん、森川さん、物語をかき乱す謎の男を塚本さん、さらに一癖ありそうな新井さんと山本さんがいて……といったようなイメージです。メインビジュアルのイメージも、アメコミ映画の雰囲気といいますか(笑)、ワクワクしそうなものを目指しました。

ーー「マンガを実写化する」という情報のインパクトが強かっただけに、「実写パートを楽しむもの」として最初は構えていました。でも、蓋を開けてみたら、そこに至るまでの過程を追ったこれまでにない“ドキュメンタリー”でした。

松江:いま、日本の映画界もTVもマンガ原作の作品が非常に多いですし、企画を立てる上で無視できない状況です。オリジナル企画が珍しくなり、そのこと自体が宣伝になるような時代になっていますが、原作者やファンなど、いろんな期待と責任を背負う中、どう役作りをしていくのかを捉えたいと思いました。しかも、自分が本当に好きなマンガを実写化すると決め、どうやってそこにアプローチしていくのか、その過程は絶対に面白くなるんじゃないか、と。

ーー第1回の森山さん『うしおととら』の実写化へのアプローチは、アマチュアの方々もオーディションに参加して、配役を決めていくというものでした。そのときは、「毎回これが続くの?」と思ったのですが、見事に10人とも似ている要素も全くない、別々のアプローチだったので驚きました。

松江:最後はマンガのコマに入る、このゴールが明確だったからこそ、その過程は10人いたら10通りのものが撮れるはず、という意識でいました。“ドキュメンタリー”というと、普段見ることのない素の顔を引き出すために、例えば楽屋にも侵入していくとか、本人は撮られていることを知らないところでこっそり撮るとか、“裏側”を映すものと思われがちです。もちろん、それも手法のひとつですが、それだけではない。「撮らないでください」と言われるのを狙うのではなくて、むしろ「撮ってください」と言ってくれる役者さんの“素”があってもいいんじゃないかと。

ーー確かに「役者を捉えたドキュメンタリー」は、辛いシーンや悲しいシーンを捉えたものが多い印象です。

松江:もちろん、そういったものが視聴者の知らない顔であり、見たいものになることはあると思います。でも、自分の好きなマンガを選び、真剣に取り組む中で見えてくる視聴者の知らない顔も絶対にあるはず。特に面白かったのは、マンガの話をすると自然と幼少期の話になり、その中で特に好きなものの話になると今へと繋がる核のようなものも見えてくるんです。さらに蒼井さんが側にいることで、役者同士だからこそ分かりえある苦労や楽しみが言葉を多く語らずとも、伝わってきました。

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