『大恋愛』戸田恵梨香が演じるのはただの“悲劇のヒロイン”ではない 感情表現の豊かさに注目

『大恋愛』戸田恵梨香の感情表現の豊かさ

 さらにドラマ初主演となった『LIAR GAME』シリーズ(2007年~、フジテレビ系)では「バカ正直のナオ」と呼ばれるほどまっすぐで、ちょっと抜けた守りたくなるような女の子・神崎直を演じた。ある意味で、この直はとても好感度の高いキャラクターであり、この路線でいくのかなと思われたが、翌年放送された『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズ(2008年~、フジテレビ系)では、根はやさしく情にもろいものの、非常にプライドが高く強い上昇志向を持つフライトドクター候補生・緋山美帆子(のちに医師)に扮し“強さ”を見せた。

 そして2010年から放送開始された『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』では、ボサボサの髪の毛に女性を消したような雰囲気、がさつで「バ○と天才は紙一重」というギリギリのキャラクターを思い切りよく演じて、大いなる評価を得た。

 上記以外にも『大切なことはすべて君が教えてくれた』(2011年、フジテレビ系)でのしっとりとした恋愛物語や、亭主の暴力から命からがら逃げてきた女性を演じた時代劇映画『駆込み女と駆出し男』(2015年)の迫真の演技、さらに、初となる本格アクションに挑戦した映画『無限の住人』(2017年)の乙橘槇絵など、印象に残る役柄は枚挙にいとまがない。

『大恋愛~僕を忘れる君と』第4話より(c)TBS

 「戸田恵梨香が演じたキャラクターで印象に残っている人物は?」という質問があったなら、非常に多くのキャラクターが回答にあがりそうなぐらい良作が多いのも、戸田の女優としての実力ではないだろうか。

 多岐にわたる感情をさまざまな役柄で表現してきた戸田だからこそ、今回の尚という役を表情豊かに演じることができるのだろう。しかし、そんな戸田をしても今回は「これまで経験したことがないぐらいの難役」だという。アルツハイマーという病について、資料等で知識を得ていたというが「簡単に理解しきれるものではない」というのは本人も分かっていると試写会では語っていた。

『大恋愛~僕を忘れる君と』第5話より(c)TBS

 だからこそ、ムロ演じる真司と現場で対峙することによって湧き出る感情を大切にしているのだろう。ここまで心の内から感情が“漏れ出てくる”と感じたキャラクターはいなかったかもしれない。ドラマなのだが、ドキュメンタリーを見ているような気になる瞬間もある。

 それでも、重くなりすぎないのは、二人によって作り出された空気感が、未来に絶望しつつも、どこか希望に満ち溢れているからだろう。そこには本来の持つ戸田とムロのハートフルな人間味も役柄に染み込まれているのだと感じる。

 物語は第二章に突入。さらにシビアな展開が待ち受けていることは想像できるが、戸田が試写会で見どころにあげていた「登場人物がどう選択して運命を捉えていくのか」という部分をじっくり堪能していきたい。

『大恋愛~僕を忘れる君と』第7話より(c)TBS

■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。

■放送情報
金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
脚本:大石静
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
出演:戸田恵梨香、ムロツヨシ、富澤たけし(サンドウィッチマン)、杉野遥亮、小篠恵奈、黒川智花、橋爪淳、夏樹陽子、草刈民代、松岡昌宏、木南晴夏、小池徹平
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
公式Twitter:@dairenai_tbs

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる