村上虹郎、笑顔の奥底にある演技の凄み 20歳の夏を切り取った『銃』は最重要な一作に
村上虹郎という若い役者は、その精悍な顔立ちと人懐こい笑顔の奥底に、どこか未完成のナイーブさを感じさせる、稀有な役者であるように思う。自分自身では上手くやっているつもりなのに、突如誰かに見抜かれてしまうナイーブな感性と、その奥底にある「不満」や「憤り」。祭りの夜に海で溺死体を発見するデビュー作『2つ目の窓』、ある日同居していた兄が忽然と姿を消す『ディストラクション・ベイビーズ』、ごく普通の高校生が剣士の素質を見出され、生きるか死ぬかの真剣勝負を挑まれる『武曲 MUKOKU』など、彼がこれまで演じた役の多くは、自分自身ではなく、他者によって発動し、ときには暴発してしまう「何か」の物語だった。それは恐らく、偶然ではないのだろう。そして、その多くは、その役柄の「出自」や「血」が関係していることも、ここに指摘しておきたい。
そう考えると、最初意外であるように思えた今回の役柄も、彼のフィルモグラフィーの一連の流れを汲んだ役柄と言えるのかもしれない。「拳銃」によって発動し、転がり続ける青年の末路とは――否、正しくは「拳銃」を手にしたことによって、彼自身も自覚することになる深い「闇」の正体とは、果たして何なのか。終盤、突如登場する、彼の実父でもある役者・村上淳との対決も、何やら示唆的ではある。そして、原作同様、冒頭に掲げられた「かく熱きにもあらず、冷ややかにもあらず、唯ぬるきがゆえに、われ汝をわが口より吐き出さん。」という『ヨハネの黙示録』からの引用も。しかし、その深い「闇」の正体は、現代を生きる若者の在り方として、必ずしも他人事とは言えない「闇」であり……そこに説得力と共感をもたらせるのが、村上虹郎という、観る者の心に何やら引っ掛かる、そして、その心の奥底を覗き込みたいと思わせる、稀有な役者の魅力と存在感なのだった。深い孤独を抱えながら、自らの生きる世界を決して色づけることができなかった青年が、そのモノクロームの世界の果てに見た景色とは。その期待とイメージを引き受けながら、それを超克しようとする20歳(当時)の若い役者のむき出しの「生」が、このフィルムには、確かに刻み込まれている。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter
■公開情報
『銃』
11月17日(土)、テアトル新宿ほか全国ロードショー
出演:村上虹郎、広瀬アリス、日南響子、新垣里沙、岡山天音、後藤淳平(ジャルジャル)、中村有志、日向丈、片山萌美、寺十吾、サヘル・ローズ、山中秀樹、リリー・フランキー、村上淳
企画・製作:奥山和由
監督:武正晴
原作:中村文則『銃』(河出書房新社)
脚本:武正晴、宍戸英紀
制作プロダクション:エクセリング
企画制作:チームオクヤマ
配給:KATSU-do、太秦
製作:KATSU-do
2018年/日本/カラー&モノクロ/DCP/5.1ch/97分/R15+
(c)吉本興業
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