新たな発見を与えてくれる役割に 『ムタフカズ』が照らし出すアニメーション業界の現状

『ムタフカズ』が照らすアニメ業界の現状

 ここで重要なのは、『AKIRA』がそうであったように、本作が一個人の描きたいことをそのままやりきっている、個人的な価値観で創造された作品だという点であり、それがさらに日本の外部からもたらされているという点である。

 アニメーションを提供する側が、受け手のニーズを先回りして、欲しがっているだろう価値を提供する。提供される側もそれを限定的に楽しみ、作り手に欲しいものを要求する。一部の商業的な日本のアニメは、この共犯的なサイクルが回り続けるなかで、予想の範囲に収まる事務的なものが増え、双方にとってビジネス的でドライな関係が出来上がってしまっているように感じられる。そこに欲しいのは、新しい風であり、アツい情熱だ。

 コミック作品を一本の映画にするため、本作はストーリー上では一つの典型的な構造を用いているのは確かである。しかし、それを補って余りあるオリジナリティが、本作にはある。外からの文化や感覚、そして、とにかく自分の描きたいものをやりきるという姿勢を貫く作品は、停滞した業界に刺激をもたらし、新たな発見を与えてくれる役割を担う。野心を持つ、作家性の強い作品を世に出そうとするギヨーム・ルナールやSTUDIO4℃の試みは、その意味で貴重なのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ムタフカズ』
全国公開中
声の出演:草なぎ剛、柄本時生、満島真之介、上坂すみれ、成河、柴田秀勝、藤井隼、桜庭和志、中井祐樹、所英男、中村大介、木原実、福井謙二、吉田尚記、男色ディーノ、Creepy Nuts
監督・絵コンテ:西見祥示郎
監督・編集:ギヨーム“RUN”ルナール
作画監督:滝口禎一
美術監督:木村真二
プロデューサー:田中栄子、アンソニー・ルー
アニメーション制作:STUDIO4℃
製作:ANKAMA
Presented by:パルコ、Beyond C.
配給:パルコ
2018年/日本・フランス/94分/カラー
(c)ANKAMA ANIMATIONS - 2017
公式サイト:mutafukaz.jp

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