ホアキン・フェニックス版、来秋米公開! 改めて振り返る“悪役ジョーカー”の歴史と高い人気の秘密

ジョーカーの歴史と人気の秘密

 この『Batman #1』を見る機会があったのですが、ジョーカーは扉ページから登場! 緑の髪、白い顔、紫のジャケット、なによりも大きくあいた口と、邪悪そのものの目つき、というジョーカー像はすでにこの時に確立しました。手にトランプを3枚持っていて、バットマンとロビン(バットマンの相棒)が書かれたカードの間にババ(ジョーカー)をはさんでいます。トランプのジョーカーを意識していたことがわかります。また物語の中でも、予告状を出して宝石を盗むがその際、毒ガスを流して相手を殺す。しかもそのガスを吸った者は、ニヤケた顔の死に顔になる、というとても残酷な手口を使います。

 当時こういう言葉があったかわかりませんが、ジョーカーは劇場型のサイコパスであり快楽殺人者なのです。ジョーカーが人気を博した理由は、ストイックなバットマンに対し、なににも縛られるず思うがままに犯罪をくりひろげる、その自由さでしょうか? 彼は、犯罪こそ最高のユーモアと考える、狂える天才です。彼に惹かれるのは、そこに危険な憧れを感じてしまうからかもしれません。例えばあなたが役者だったら、バットマンよりジョーカーの方を演じてみたいと思いませんか? その方が楽しそうですよね(笑)。

 50年代ごろコミックにおける過激な表現への規制が生じ、60年代のテレビドラマシリーズではコミカルなジョーカーが登場したので、ジョーカーは“白塗りのイタズラ好きの愉快犯”のイメージがしばらく続きます。しかしその後、コミックの方でもジョーカーの狂気が復活し始め、ティム・バートン監督の『バットマン』(89)に登場したジャック・ニコルソン演じるジョーカーが怖いジョーカーのイメージを取り戻しました。

 当時の製作陣のコメントで「今度の映画に出てくるジョーカーは『エルム街の悪夢」のフレディ並みに怖くする」とあり、まさにその通りの怪人としてジョーカーは『バットマン』(89)に登場します。またこのあたりから、ジョーカーとバットマンは“コインの表と裏のような対(つい)の存在”であると描かれるようになってきました。それからは、新たな視点でバットマン伝説を描き直す『ダークナイト』でレジャー版のジョーカー、そして『スーサイド・スクワッド』でジャレッド・レト版のジョーカーが登場します。

『スーサイド・スクワッド』(c)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 どのジョーカーがいいか好みはわかれるところです。まず大前提として、僕はどのジョーカーも好きです。この3人のフィギュアを持ってますから。その上であえて3者を比較すると、ニコルソン版は毒ガスを使うとか、大げさな仕掛けや武器で狂気のバカ騒ぎをするなど、コミックのジョーカーには近い気がしますが、一方僕はジョーカーはスリムなイメージがありそういう意味でレト版の方があっていると思うのです。ただレト版は、狂える恋人ハーレイ・クインとペアで描かれるので他の2人に比べ、人間味やかわいげがあります。実際、ハロウィンでもこの2人の仮装をするカップルが多いですよね。

 レジャーのジョーカーはビジュアル的には他の2人より、コミック版のイメージとは異なるのですが、ジョーカーというキャラの持っている底知れぬ怖さを見事に表現していたように思います。『ダークナイト』ではジョーカーの“過去”(ニコルソン版は誕生秘話が描かれている)や“プライベート”(レト版はハーレイ・クインとの関係)が一切描かれず、こいつがどういう奴なのかは、ひたすら観客の想像に任せられています。要はどうやっても理解・コミュニケートできない存在です。

 ニコルソン版のジョーカーは大虐殺を企て物理的に街を攻撃するのですが、レジャー版は市民の心を狂気と恐怖で汚染していきます。レト版は、とにかく自分の好きなようにやりたいという感じで(笑)、ニコルソン版、レジャー版ほど大それたことは考えてはいないのです。

 映画としても、ニコルソン版はバットマンの敵、レト版はハーレイ・クインの相手役ですが、レジャー版はジョーカーこそが主役であり、バットマンがその敵に描かれているという構造です。今回のフェニックス版『ジョーカー(原題)』は、若き日のジョーカーをテーマにしているそうですが、ジョーカーを主役として描くレジャー版と、ジョーカーの過去を描くニコルソン版、そしてプライベートを描くレト版すべてにチャレンジした作品になりそうです。きっとフェニックス版のジョーカーのフィギュアを買うことになるでしょう(笑)。それほど期待してしまうのです。

■杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画に関するコラム等を『スクリーン』誌、『DVD&動画配信でーた』誌、劇場パンフレット等で担当。サンディエゴ・コミコンにも毎夏参加。現地から日本のニュース・サイトへのレポートも手掛ける。東京コミコンにてスタン・リーが登壇したスパイダーマンのステージのMCもつとめた。エマ・ストーンに「あなた日本のスパイダーマンね」と言われたことが自慢。現在発売中の「アメコミ・フロント・ライン」の執筆にも参加。Twitter

■リリース情報
『ダークナイト』
Blu-ray&DVD発売中
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ヒース・レジャー、ゲイリー・オールドマン、アーロン・エッカート、マギー・ギレンホール
脚本:ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン
販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
(c)2014 Warner Bros. Entertainment Inc.
公式サイト:https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=4245/

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