『若い女』は冬のパリを舞台にした『ライ麦畑でつかまえて』? “好きにはなれない”人物造形の妙

『若い女』“好きにはなれない”人物造形の妙


 基本的にその場の反射で生きているポーラは、予想もしないような言動で観客を驚かせる。劇中、とある友人の信頼を裏切ったくだりでは、許しを得るために「私をぶって」と言い出すのだが、その言葉に従って友人がポーラをぶったとたん、なぜかポーラは迷いなく友人の顔面に思い切りビンタを返していく。理由はよくわからない。あたかも、その鋭い動物的反射のみが彼女の本質だとでも言いたげである。またポーラは母親とも絶縁しており、親がいない間に合鍵を探して実家へ忍び込むのだが、娘が家に帰ってきたと知って半狂乱になった母親とのつかみ合いもまた、虚しくも壮絶である。ふたりの女性は獣のように吠え、家を追い出されそうになったポーラは階段の手すりにしがみついて離れない。親子の醜態をさんざん見せられた観客が情けない気持ちになったところでけんかは終わるのだが、ようやく落ち着いたふたりは、なぜか芋を揚げてフライドポテトを作ると無言で食べ始める。こうした展開には唖然とさせられる。ことほどさように、全体的に妙なテンポで進んでいく本作を見ながら、世の中に自分の場所を見つけるというのは意外にむずかしいものだなと、しだいに共感に近い感情が湧いてくるのだからふしぎである。

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 しかしどうしても、ポーラのことが好きになるまでには至らない。彼女はあいかわらずトラブルの多い、何かとややこしい女性である。応援してあげたい気持ちはあるのだが、友人としてやっていける気がしない。そうした独特の距離感もまた、本作らしさなのではないかという気がする。チャーミングでもなく、共感できるわけでもない、最後まで映画を見終えても決して友だちになりたいとは思えないこの作品の主人公が、なぜか記憶に居座りつづけるのだ。

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

■公開情報
『若い女』
公開中
監督・脚本:レオノール・セライユ
出演:レティシア・ドッシュ、グレゴワール・モンサンジョン、スレイマン・セイ・ンディアイ、ナタリー・リシャール
配給:サンリス
2017年/フランス/フランス語/97分/カラー
(c)2017 Blue Monday Productions
公式サイト:http://www.senlis.co.jp/wakai-onna

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