松岡茉優、初主演『勝手にふるえてろ』で圧巻の演技 “やり取りの巧さ”から“単独プレイの巧さ”へ
第30回東京国際映画祭でみごと観客賞を受賞した『勝手にふるえてろ』。感動の最終回を迎えたばかりの『コウノドリ』(TBS系)で、あたたかなペルソナメンバーのひとり・下屋加江を演じきった松岡茉優の、満を持しての映画初主演作である。彼女が愛すべき“こじらせ女子”・江藤ヨシカを真の演技者として魅せた本作が、『コウノドリ』終了直後という、まさにこの最高のタイミングで封切られることとなった。
『コウノドリ』第1期(2015)から2年ぶりの続編となった今作では、シリーズものを通して下屋加江という、ひとりのキャラクターの成長を体現した。同期の白川(坂口健太郎)と切磋琢磨し合いながらペルソナを支えるひとりとなった彼女は、研修医・赤西吾郎(宮沢氷魚)という後輩の登場により、自信も責任も大きなものへと変わっていった。第6話で描かれた、同じ名前で同い年の患者・神谷カエ(福田麻由子)の死をきっかけに、産科から救命科へ異動という新たな決断は、今作のハイライトのひとつだ。アツく一生懸命な性格ゆえ、ともすると暴走気味になりがちな彼女だが、ペルソナのチームワークの中で、自分なりの命との向き合い方を見いだしていく。最終話、産科医と救命医が入り乱れる場での、彼女の瞬時の判断と的確な指示は頼もしいものであった。演者が多い場面での、松岡自身のやり取りの巧さが際立っていた。
今年は『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)でも、石坂浩二をはじめとした日本の名優たちを相手に、落ち着いたやり取りの巧さを見せた。現在22歳にして長いキャリアを持つ松岡だからこその、柔軟性が光っていたのだ。
いっぽう『勝手にふるえてろ』では、“やり取りの巧さ”以上に“単独プレイの巧さ”が最高だ。彼女が演じるヨシカは、2つの恋に悩み、妄想を重ねて暴走していく恋愛未経験のOL。魅力的なセリフや登場人物、綿矢りさ原作小説からの脚色の巧さに何度も唸ったが、やはり、ほぼ全編出ずっぱりの松岡の、走って、跳ねて、歌って、笑って、泣いて、キレる、フルスロットル状態の演技に魅せられる。
思えば前クールに評判であった『ウチの夫は仕事ができない』(日本テレビ系)では、錦戸亮演じる“仕事ができない夫”・小林司を“仕事ができる夫”にするべく奮闘する若妻・沙也加を演じ、ミュージカル調の妄想ワールドを繰り広げていたが、それを本作で完全に爆発させた印象だ。くるくる変わる表情に、大小高低を自在に操る声。喜怒哀楽を豊かに、それも抜群の瞬発力で表現している。