ブルボンヌの『カランコエの花』評:クラスにも職場にもいるLGBTのリアルな現状

ブルボンヌの『カランコエの花』評

 彼らの関係性や交わされる言葉が、実在のクラスを覗き見ている気分になるくらい自然に入ってくるのがスゴイなと思っていたら、監督曰く、実際の学校を借りて、明確な脚本を与えないまま設定やヒントで俳優たちに多くのシーンを演じてもらったとのこと。映像の透明感も相まって、まさにみずみずしさに溢れているのです。もちろん、その撮り方が成り立つのは監督と若手俳優たちの信頼関係の賜物。

 この作品、元々は27年続く『レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜』の公募コンペティションでグランプリを獲得したもので、アタシはその時MCを担当していたご縁。そこから、新宿2丁目のお店や代々木公園で開催されたレインボープライドフェスティバルまで、撮影後もまるで生徒を引率するように「現場」を知らせる姿に、監督と俳優の絆と、彼らの真摯なもの作りを垣間見たのです。ババア胸熱ぅ……。その後、日本全国の映画祭で数々の賞に輝き、ついに新宿の劇場で一般公開となった際には連日満員の大評判。さらなる劇場公開の予定も各地で続々と決まっています。

 「差別なんてない」と言う人もいますが、日本は大半の当事者が学校や職場で恋愛や性の話が出るたびに、嘘をついて生きていかなければいけないのが現状。誰かが笑って「キモい」なんて話すたびに「自分の本当の想いなんて絶対に言えない」と傷ついてきた人が大勢います。時には一緒になって苦笑いで「だよね」なんて相槌を打ちながら。映画の中でも「友人がそうだと知ってしまった時、どう受け止めるべきか」「自分がそうであることを隠し通して、友情や誇りを得られるのか」と、それぞれの立場の葛藤が描かれ、クラスという社会の縮図を通して観客に問いかけます。そして明かされる「その人」と、意外な事実。

 カランコエの花ことばは、「あなたを守る」「たくさんの小さな思い出」「おおらかな心」「幸福を告げる」。カワイソウなトモダチを守るのではなく、たくさんの時や思い出を共有したひとを属性一つで切り捨ててしまうような人になりたいのか、そんなあなた自身の尊厳を守ること。他者へのおおらかな心こそが、巡り巡って自分の幸せをもたらしてくれること。この美しく優しい作品に触れて、あなたの中の幸せの種を花咲かせていただければと願います。

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■ブルボンヌ
女装パフォーマー・ライター。ゲイマガジンの主幹編集者を経て、女装パフォーマンス集団や新宿2丁目のゲイミックスバー『Campy! Bar』グループのプロデュースを手掛ける。現在はタレント、エッセイストとして、ラジオパーソナリティー、イベントMC、講師、女性誌・カルチャー誌連載等で活動中。LGBT・女性テーマの映画を中心に、パンフレット寄稿やトークショーにも出演。Twitter

■公開情報
『カランコエの花』
アップリンク渋谷にて公開中
出演:今田美桜、永瀬千裕、笠松将、須藤誠、有佐、堀春菜、手島実優、石本径代、山上綾加、古山憲正、イワゴウサトシ
監督:中川駿
企画:木佐優士、柴田徹也、中川駿
プロデューサー:山野淳、木佐優士
製作:中川組
2016年/日本/39分
(c)2018中川組
公式サイト:https://kalanchoe-no-hana.com/

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