山田孝之が用意した“5本のバラ”が切ない 『dele』クライアントの人生を表現する光の演出

『dele』人生を表現する光の演出

 『dele』(テレビ朝日系)の第3話が8月10日に放送された。主人公・坂上圭司(山田孝之)と真柴祐太郎(菅田将暉)は、クライアントの依頼を受け、死後に不都合なデジタル記録を“内密に”抹消する仕事を請け負っている。1話完結型の物語の中で、彼らはクライアントの“デジタル遺品”を通じて、クライアントの人生に触れることになる。第3話は、そんなクライアントの人生を美しい光で演出する、ロマンチックで印象的な回だった。

 オープニングで、どこか寂しげな背中をした老人が映し出される。写真館を営む老人・浦田文雄(高橋源一郎)は「dele. LIFE」の前で立ち止まる。圭司が外出中だったため、祐太郎は彼を事務所に無断で案内し、彼から依頼を受ける。その内容は「死後、パソコンデータを削除すること」と「削除前にデータをコピーし、バラの花とともにそのデータを江角幸子(余貴美子)へ届けてほしい」というものだった。祐太郎が依頼を受けた数日後、浦田が海へ飛び込み自殺したことが発覚する。圭司と祐太郎が浦田の死を知る前から、浦田はどこか寂しげな光を纏っていた。この後、彼の身に何かが起こる。そう予期させるような悲しい光だ。

 死亡確認をするために、浦田のいたさびれた街を訪れる祐太郎。そこから徐々に分かってきたのが、浦田が幸子を監視していたという事実だ。幸子が営む理髪店に盗聴器が仕掛けられていたのだ。浦田は28年間も、幸子を監視し続けていた。しかし事実が発覚しても、浦田の真意は分からない。戸惑う圭司と祐太郎だったが、浦田が営んでいた写真館で盗聴器の音声を聞く圭司と浦田の過去がオーバーラップしていく。暗がりでひっそりと幸子の様子を盗聴する浦田。時が経つにつれ、盗聴する彼の周りには暖かい光が差し込むようになっていく。ある日、カップ麺をすすりながら盗聴する浦田の耳に飛び込んできたのは「またそんなもの食べて」と客を諭す幸子の声。自分に言われているようで思わず笑ってしまう浦田。職務として、幸子を監視していた男の表情はもうない。監視役から、彼女の存在を自分の存在価値と考え見つめ続けてきた浦田。そんな彼の表情には、冒頭の寂しげな様子は見受けられない。

 ヘッドフォンをつけ、かつて浦田がいた場所で音声を聞き始めた圭司の姿は逆光で映し出され、浦田の真意を知ろうとする険しい表情が印象的だった。しかし圭司が聞き入れば聞き入るほど、祐太郎が浦田と見間違えるほど、圭司の心は浦田の真意に近づいていく。浦田の過去から今の圭司の姿に戻ってきたとき、圭司の表情は相変わらず険しかったが、その顔には窓から差す美しい光が当たっていた。合理的で必要以上に人と関わろうとしない圭司だが、浦田の抱えてきた複雑な事情を察してか、この世にいない浦田の心に寄り添おうとしているようだった。圭司の優しさと浦田の思いが滲む切ない1シーンだった。

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