山田孝之が用意した“5本のバラ”が切ない 『dele』クライアントの人生を表現する光の演出

『dele』人生を表現する光の演出

 幸子もまた、浦田のことを思い出していた。写真館を閉めたという浦田に「一度くらいは髪を切りませんか?」と問いかける幸子。浦田は、幸子に髭を剃られているとき「もう終わりにしました」と優しげな声でつぶやく。幸子を愛おしげに見つめるその表情には、今までで一番暖かな光が差し込んでいた。一方で、浦田のことを思い出す幸子が「私ももう終わりにします」と口にしたとき、決心する彼女の顔には光が当たらない。かつての恋人で、爆破事件の首謀者である後藤という男と年に1回会っていた幸子。彼女は自分の止まった人生を終わらせるため、「通報」という形をとる。外の光に照らされる彼女の表情は決して明るいものではなかったが、どこか清々しさを感じさせるものだった。

 浦田の依頼を受け、“5本のバラ”とデータを幸子に手渡す祐太郎。浦田の行為をとっくのとうに知っていた幸子は、浦田の思いを懸命に代弁しようとする祐太郎の口に指を添える。「ありがと」と静かに告げた幸子の表情もまた、幸子を愛おしく見つめた浦田のように、優しげなものだった。

 圭司が用意した“5本のバラ”には、「あなたに出会えてよかった」という意味が込められている。ロマンチックな回ではあったが、デジタル遺品を通じて知ることができるのは人生のほんの一部である。劇中「自殺した本当の理由は、自殺した本人にしか分からない」という台詞があった。圭司と祐太郎、そして視聴者が触れられる依頼者の人生はほんの一部でしかない。激しい切なさに襲われる回だった。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
金曜ナイトドラマ『dele(ディーリー)』
テレビ朝日系にて、毎週金曜23:15~深夜0:15放送(※一部地域を除く)
出演:山田孝之、菅田将暉、麻生久美子
原案・パイロット脚本:本多孝好
脚本:本多孝好、金城一紀、瀧本智行、青島武、渡辺雄介、徳永富彦
音楽: 岩崎太整、DJ MITSU THE BEATS
ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー:山田兼司(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)
監督:常廣丈太(テレビ朝日)、瀧本智行
撮影:今村圭佑、榊原直記
制作協力:5年D組
制作著作:テレビ朝日
(c)テレビ朝日
公式サイト:http://dele.life/

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