ドレスコーズ 志磨遼平、『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』を語る 「世界中でずっと愛される理由がわかる」

志磨遼平、『ムーミン』を語る

「描いているのはなんとなく“家族モノ”」

ーー今回の作品には、「クリスマスを迎える」というひとつの大きなテーマがあります。

志磨:誰かに贈り物をすることや、ひたすら楽しみが訪れるのを待つという行為は、極めて文化的で美しい営みだな、と改めて思いました。ムーミンはみんなが「クリスマスさん」という人が来るのを待っている、と勘違いしているわけですが、これはサミュエル・ベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』を思い出します。目に見えない “クリスマス” が訪れるのを、みんなでそわそわしながら、ひたすら待つ。どうやらプレゼントが必要らしい、と聞いてムーミンは「おひさま」を用意しようと思う。それは自分が今最も欲しいものだから、と。そこになんとも言えない切なさがあるんですよね。待っている間は、部屋の飾り付けでもしながら、あとは穏やかに夢でも見ておこうという感じが、うっすら切なくて美しい。

ーー恐怖を煽って乗り越えさせようと思える展開は随所にあるのに、そういう部分がフラットに描かれているのが独特な作りになっていると感じます。

志磨:いわゆる寓話的な物語だと、ムーミンが恐怖を乗り越え成長するための “装置” として、冬を運んでくる精霊の氷姫やモランを “恐ろしい化け物” のように描くことは容易いんですが、本作はそういう描き方を極力避けて、むしろ誰とも交わることのできない悲しい存在だ、とおしゃまさんに語らせる。彼らの孤独をこちらが取り除いてあげることはできない。全てのものを凍らせてしまうがゆえに焚き火にもあたれないモランの姿にムーミンは同情する。ここらへんが絶妙ですよね。ムーミンの物語が世界中でずっと愛される理由がわかります。

ーームーミン谷の“仲間”や“家族”も、テーマのひとつとして描かれています。

志磨:日本版のアニメタイトルが『楽しいムーミン一家』というくらいですから、ただただ家族の団欒を描くのかと思いきや、例えばおしゃまさんの「家族は選べないからね」っていうセリフだったり、犬のめそめそが兄弟だと思い込んでいたオオカミ達に襲われて落ち込んだり。そんなめそめそを救ったヘムレンさんが「家族とは時に複雑なんだ、離れているほうがいいときもあるさ」と慰めたり。やはりここでも様々な状況を受け入れ、なにも否定しない。これがムーミン谷の哲学なんでしょうね。

ーー“こうあるべきだ”という理想を押し付けてはこないんですよね。

志磨:そうなんです。むしろドライなくらいです。フィリヨンカさんっていう、ずっと誰かのために食事を用意しているのに誰も来ないという孤独なおばさんに、ムーミンは平気で「僕、あの人あんまり好きじゃないんだよね」とか言うんですよね(笑)。でも、結局はそんなフィリヨンカさんも家に招いてみんなで食卓を囲む。そういう一貫した “家族観” があるように思います。それで言うと、ぼくがおかしかったのはヘムレンさんのキャラクターですね。冬眠しているムーミンたちを叩き起こしては「運動はいいぞお!」「さあ、外に出て運動はいかがかな!」しか言わない(笑)。80年代ジャンプのギャグ漫画に出てきそうなマッチョキャラで。

ーー本作を観て、自身の中で何か変化はありました?

志磨:変化というよりは、すごくストレートな共感、納得があったんです。僕はわりと気性が穏やかなので、本作のような童話だったり、児童文学が今でも大好きなんです。「こういうの、たまに観ると心が洗われるよね~」という感じじゃなくて、いまだずっとこういう感覚で生きてしまってるんじゃないかな? という事を実感しました。よく言えばピュア、悪く言えば世間知らず。

ーー志磨さんのメンタリティーとムーミン谷が合致したと。

志磨:はい。ムーミン谷で育ったんじゃないか、っていうぐらいの(笑)。僕は一人っ子で兄弟がいないんですね。だから人格形成の時期に、他者と争ったり、激しい感情をぶつけたりした経験がずっとないまま大人になっちゃって。だから、自分は感情の伝え方がものすごく下手だという自覚があって。近い人からはその性格をよく指摘されるんです。もっとちゃんと正面からぶつかりなよ、隠すほうが失礼だよ、という。

ーードライということですか?

志磨:人に対して激しく怒ったり、ガッカリしたことがないんです。でも、それって裏返せば「期待してない」「無関心」と同じなんじゃないの? と言われると、うーん……と言葉に詰まってしまう。でも、この映画を観ると距離感の測り方にすごく共感して。僕、性格がムーミンなんだな、っていう。なので、僕のように人との付き合い方が少し下手な方にもおすすめしたいですね。

(取材・文=石井達也、撮影=池村隆司)

※7月10日15時半〜18時にかけて掲載していた当記事に誤りがありました。関係者の方々、および読者の皆様に謹んでお詫び申し上げます。

■リリース情報
『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』Blu-ray&DVD
発売中

<豪華版Blu-ray>
※初回生産限定
・スチールブック仕様
・ピンズ(5個セット)
・ブックレット
・BD1枚組(本編86分)
価格:6,200円(税別)

<豪華版DVD>
※初回生産限定
・スチールブック仕様
・ピンズ(5個セット)
・ブックレット
・DVD1枚組(本編86分)
価格:5,800円(税別)

<通常版DVD>
・DVD1枚組(本編86分)
価格:3,800円(税別)

<映像特典>
・本国声優インタビュー集
・予告編集(豪華版・通常版 共通)

音声:日本語、吹替英語、オリジナル
字幕:日本語
製作国:フィンランド・ポーランド合作

原作:トーベ・ヤンソン
監督:ヤコブ・ブロンスキ、イーラ・カーペラン
脚本:イーラ・カーペラン
エグゼクティブ・プロデューサー:トム・カーペラン
制作:アニムーン
<キャスト(声の出演・日本語吹き替え)>
宮沢りえ:ムーミントロール
森川智之:ムーミンパパ、スナフキン、ヘムレン、郵便配達員、めそめそ
朴ロ美:ムーミンママ、リトルミイ、リス、ミムラねえさん、ガフサ夫人、フィリフヨンカ、ニブリング、おしゃまさん、茶髪ホムサ、金髪ホムサ、ホムサ祖母、サロメ、リトル・ウッディ
サラ・オレイン:赤いリス
神田沙也加:ナレーション
(c)Filmkompaniet / Animoon Moomin Characters TM
公式サイト:http://www.moominswonderland.jp/
DVD情報:http://www.amuse-s-e.co.jp/moominswonderland/

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