松江哲明の“いま語りたい”一本 第30回
「お見事!」と言わずにはいられない 映画作りの苦楽が詰まった『カメラを止めるな!』の面白さ
プロデューサーからの無茶な要求で始まった「全編ワンカット撮影&生中継」ですが、誤魔化しが絶対にきかない、関わる人みんなの力を結集させなければできないものです。僕もワンカットでの撮影を行うことは多いのですが、実際にカットを割る形では撮れない高揚感がワンカットにはあります。だから後半パートで右往左往しながら、映画を完結させるために動くスタッフ・キャストたちの姿が面白くもあり、感動的ですらあります。1本の映画を作るために、映っている役者だけではなく、監督ほかたくさんのスタッフが参加して成り立ってる、映画をみんなで作る楽しみがありありと詰まっているんです。それと同時に大変さも。苦楽が同時にあるのが現場であり、それが隠されてしまうのが映像なのです。本作が素晴らしいのは、その映るはずのない両方があるからだと思います。
どんどんCG技術が発達して、「映画はすべてアニメーションとなる」という言葉もありましたが、本作を観ると、生身の体と、とっさのアイディアと、ど根性を集結させてでしかできないものが映画にはあるのだと分かります。まるで映画作りを知ることができる教科書のような作品とも言えるでしょう。派手なハリウッド大作も低予算の自主映画も映画館の入場料金は同じです。それでも本作から得られる満足感、つまり「映画を観たなぁ」という気持ちは同等、またはそれ以上だと言えます。それは勝ち負けというのとは少し違って、同じ映画としての土俵に立つことをまったく物怖じしていないという感じがするのです。制作者が自分たちに何ができるかを創意工夫して作っている。そして完成した作品に甘えが一切ない。いろんなことを全部研究しつくして、俺たちの勝負手はこれだというのを選択している。
自分もやってみたい、真似したくなる、そう思わせてくれる映画は間違いなくいい映画です。ただ映画を観るだけではなく、もっと映画を知りたい、踏み込みたい、秘密を知りたいと思わせる映画があるんですよね。今なおシリーズが作り続けられている『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』がそうだったように。『カメラを止めるな!』も、新たな映画作りに誘うきっかけになる作品になるのではないでしょうか。
僕はあの素敵なエンドロールを観ながら、そんなことを思いました。
(構成=石井達也)
■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作は山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』。
■公開情報
『カメラを止めるな!』
新宿k's cinema、池袋シネマ・ロサにて公開中
監督・脚本:上田慎一郎
プロデューサー:市橋浩治
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山崎俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、浅森咲希奈、吉田美紀、合田純奈、秋山ゆずき
配給:ENBUゼミナール
(c)ENBUゼミナール
公式サイト:http://kametome.net/index.html