誰もが誰かの“毒”となるーー『あなたには帰る家がある』が描く多種多様な価値観

誰もが誰かの“毒”となる『あな家』

 その最たる例が、茄子田綾子(木村多江)のストーカーまがいな秀明へのアプローチだ。折り畳み傘を持っているにも関わらず、雨に濡れて秀明の家にたずねてくる。子犬のような上目遣いに、同じTBSで放送していたドラマ『カルテット』を思い出した。異性を誘惑するために必要なのは、人間を捨てること。「猫になるか、虎になるか、雨に濡れた犬になるか」とレクチャーした回だ。綾子は雨に濡れた犬で登場し、秀明の部屋に猫のようにスルリと入り込み、そして虎のように獲物(合鍵)を奪った。さらに三角巾&割烹着の飲食店を「男性にお酒を出す仕事」と言って同情をかったと思ったら、真弓を見つけるやいなや全力疾走で秀明の部屋に先回りして「おかえりなさい」と言ってみせたり……もちろん秀明のパーカーを羽織るのも忘れない。

 綾子こそ、昭和の男・太郎(ユースケ・サンタマリア)が求める“理想の妻”に応え続けた、いわばたかをくくらせるプロだ。相手の期待通りに動いて見せることで心を掴み、結果として自分の本望を遂げる。太郎の言いなりになっているように見せるのも、計算づくだということ。世の中、そんな策士もいるのだ。私たちは、気づかないうちに見たいものしか見ないようになっている。“この人ならこうしてくれるだろう”、”この人はこんなもんだろう”と、たかをくくっていると、とんでもない毒が近くに潜んでいることも、そして自分自身が誰かを追い込む毒を持っていることも見逃してしまうのではないか。そのゾワゾワ感が、このドラマの真の魅力だ。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』
TBS系列にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:中谷美紀、玉木宏、ユースケ・サンタマリア、木村多江、駿河太郎、笛木優子、高橋メアリージュン、藤本敏史(FUJIWARA)、トリンドル玲奈
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫刊)
演出:平野俊一
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/anaie/

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