寂しくない人なんていないーー『あなたには帰る家がある』が描く“自由な時代”の喪失感
「夫婦は終わってからが面白い」
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系)を観ていると、改めて私たちは正解のない時代を生きているのだと感じる。夫の家に住まわせてもらっていると耐える妻も、共働きで家事も子育ても頑張ろうとする妻も、心の健康を取り戻そうとシングルマザーを選択する妻も……どれが正解とも言えない。“こう生きれば幸せだ”という、誰かが敷いた正解のレールに縛られる時代は終わった。終わったからこそ、始まる面白さと難しさがある。
ついに離婚届に判を押した佐藤夫婦。人は失うとなると、急にその価値を高く感じることがある。結婚記念日に浮気されて、さらに浮気相手が乗り込んできて、娘を傷つけて、家の中をめちゃくちゃに荒らされた……ということよりも、電球を替えてくれた、苦手な虫を退治してくれた、適当だけど話を聞いてくれたと……と、平和だったころの記憶ばかりが脳内再生される真弓(中谷美紀)。秀明(玉木宏)にもいいところがあった。もちろん、だからこそ結婚したのだから。13年間、夫婦として過ごした思い出がすぐに消えるわけではない。モノは捨てられても、記憶はずっと残る。一生笑えると思っていた出来事が、もう思い出すこともなくなるのだという寂しさが、真弓の決断力を鈍らせていた。
一方、秀明も思い出の地巡りに真弓を連れ出し、最後の悪あがきをしてみせる。「どのツラ下げて……」と“やり直そう”の一言が言えずに1人涙をする秀明だが、きっと視聴者の多くが“今さら何を”とツッコミを入れたのではないだろうか。秀明を見ていると、つくづく人は自分以上の想像力を働かせるのが難しい生き物なのだと感じる。自分がこうされたらうれしいはず、自分ならそうされても気づかないはず……そんな自分主体の尺度でしか相手の気持ちを推し量れないから、ケーキで機嫌を取れると思ったり、「妻や娘を傷つけるつもりはなかった」などと言えるのだろう。
優柔不断な秀明は、相手に振り回されているように見えて、実は一番自分しか見えていない。私たちは影響し合って生きている。自分にとっては大したことではないと思っていても、相手をひどく傷つけることだってある。このドラマの怖さは、カピバラのように無害です、という顔をした秀明が、2組の家庭を壊す罪を犯す落とし穴があるということ。しかも罪悪感なく、振り返れば「なにが欲しかったんだろう」というほど簡単に、その穴に落ちる可能性があるということだ。
そして、それを誘う人は見るからに悪女というわけではない。良妻賢母の鑑のような茄子田綾子(木村多江)は、「時々でいいから」と心の穴を埋めてほしいと頼ってきた。いつだって“こんなはずじゃなかった”という結果をもたらす人は「壊すつもりはないから」、「誰にも言わないから」と、甘い言葉を囁いて近づいてくる。秀明のもとには、森永(高橋メアリージュン)が浮気を「黙っていてあげるから」と距離を縮めてきた。そして麗奈のもとには、クラスメートが……。