「完成まで誰にも会わなかったんだ」 ジェフ・ゴールドブラム、6年かかった『犬ヶ島』の裏側語る
『グランド・ブダペスト・ホテル』『ファンタスティック Mr.FOX』のウェス・アンダーソンが監督した映画『犬ヶ島』が5月25日に公開された。本作は、今から20年後の日本を舞台にしたストップモーション・アニメーション。ドッグ病が蔓延するメガ崎市の小林市長は、人間への感染を恐れ、すべての犬を“犬ヶ島”に追放した。そんな中、12歳の少年・アタリは護衛犬だったスポッツを救うため1人で“犬ヶ島”へ。島で出会った5匹の犬と彼はスポッツを探す旅に出る。
今回リアルサウンド映画部では、ゴシップ好きの犬・デュークの声を担当したジェフ・ゴールドブラムにインタビュー。独りぼっちで行われたレコーディングの様子や、6年かかった製作の裏側について語ってもらった。
「ウェスは見事なものを作り上げた」
ーー『ライフ・アクアティック』『グランド・ブダペスト・ホテル』に続き、ウェスとは3度目のタッグですね。声優として出演するウェス監督作は、体を使って演じるときと違いはありましたか?
ジェフ・ゴールドブラム(以下、ゴールドブラム):衣装がないから見た目を気にしなくてよかったね。でも、自分が役になりきるという点では何も変わらなかったよ。ただ、声優の場合は演技のみに集中できる。それに撮影時の天候を配慮する必要もないね。ウェスは俳優側に立つ監督だから、「もう少しこうしよう」っていう指示をたくさん出してくるんだ。声だけだと、予算を気にせず25パターンくらい撮れる。創造性が養われた現場だったし、僕は演技が好きだから本当に楽しかったよ。
ーー映像が出来上がるのとレコーディングは、どちらが先だったのでしょう?
ゴールドブラム:レコーディングが先だったよ。脚本が完成していない段階で俳優同士が集まって何かを試すという方法もあるのだけれど、今回は脚本がしっかり出来上がっていたから、僕は2時間撮っただけでよかったんだ。それから3年間かけてアニメーションが出来上がっていった。
ーー3年間も!?
ゴールドブラム:そうだよ! でもウェスはこの作品に6年かけてるよ(笑)。実際に制作を初めてから完成するまでが3年間だったんだ。
ーーということは、デュークの姿を見ずに役作りを行ったんですね。
ゴールドブラム:最初は、脚本と一緒に少しの写真が送られてきただけだった。確か、日本の絵画とか犬のイラストだったかな。だからデュークの姿は出来上がっていなかったよ。(デュークのフィギュアを持って)ねぇ、見て。この子は緑色の目をしてるけど、映画のなかでのデュークは青だったんじゃないかな。実際のパペットを持ったら、本当に素晴らしく思うよ。ウェスは見事なものを作り上げたね。
ーーレコーディングは、ヒーロー犬役の5人全員揃って行われたのでしょうか?
ゴールドブラム:エドワード・ノートン、 ビル・マーレイ、 ブライアン・クランストン、ボブ・バラバンの4人はニューヨークでの録音に全員揃って立ち会ったんだけど、忙しかったから僕だけロサンゼルスのスタジオで独りぼっちで収録したんだ。ウェスからのスピーカーフォンで指示を出してもらいながら収録したよ。
ーー劇中で一緒に旅をしたアタリ役のコーユー・ランキンとも会わずじまいだったと。
ゴールドブラム:実写だったら会うのが普通なんだけどね。それでも彼は素敵で、繊細で、さらにシンプルでいて、才能に溢れていた。実写で共演したいくらいだったよ。
ーー出来上がったのが3年後なら、完成した『犬ヶ島』を観たのは?
ゴールドブラム:僕が初めて完成した作品を観たのは、ベルリン国際映画祭だった。オープニング作品に選ばれてタキシードを着て、キャストたちとウェスと一緒に観たよ。実は、この映画を作っている間は1度も誰にも会っていなかったんだよね。1人で収録したから(笑)。完成した作品には、すごく圧倒されたよ。正直に言うと、最初はよく理解できなかった。あまりにもたくさんのことが起こりすぎていたから。美しさや精巧さに圧倒されて涙してしまったよ。その後、2、3回は観て、やっと理解が追いついたよ。