>  >  > シネコンが“名画座”に挑戦?

立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第26回

『タイタニック』も極上音響で! シネコン×名画座『午前十時の映画祭9』が示す、映画館の価値

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 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第26回は“シネコン流名画座企画”について。

 2月末日、『午前十時の映画祭9』のラインナップが発表されました。

午前十時の映画祭9』公式サイト

 『午前十時の映画祭』とは、週替わり、または2週替わりで過去の名作を1年間に渡って朝10時スタートで上映していくという企画です。第9回は全国58館で行われることが決まっています。

 初期はオールタイムベスト的な名作中の名作洋画だけを扱っていましたが、途中から邦画も含めるようになり、『9』では『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』の4Kデジタルリマスター版や『近松物語』なんかが入っています。洋画も『トップガン』『ボディガード』『パルプ・フィクション』など時代を彩ったポップな作品も入ってくるようになりました。

 この『午前十時の映画祭』、2009年の秋頃に最初の開催が発表された時、企画担当だった僕は激しい嫉妬と憧憬を覚えたものでした。思春期を90年代に過ごした僕にとって、ミニシアターや名画座こそ“神殿”。何の因果かシネコンで働くことになったものの、やりたいことをやってやるという野望でギラギラしていました。番組編成を担当させてもらうことになって始めたのは、常に小規模作品を上映するレーベル「シネマシティテーク」と、毎月テーマを決めた旧作3~5本の中から会員のWeb投票で上映作品を決めていく「シネマカウンシル」という企画の立ち上げです。都心からは外れているけれども、ここに新たにカルチャーの拠点を作るのだと意気込んでいたのでした。

 しかし旧作上映は、手間はめちゃくちゃかかるし、配給会社にもあまりいい顔されないし(そりゃ当然ですけどね)、お客さんも大して来ないしで、この国の映画文化は死んだ、もうYouTubeだけ観てろ、と当時は呪いの言葉を吐きまくっていました(笑)。

 そんな時に、主にTOHOシネマズにて、週替わり年に一挙50本の旧作上映のニュース。これが資金力、政治力というものかと。似たような企画を考えていたものの、到底実現できなかったこともあって、その悔しさとうらやましさを、当時毎週発行していたメールマガジンに率直に書き連ねて、ではTOHOシネマズでお会いしましょう、と締めたのでした、たしか。

 それからしばらく経って、なんと『午前十時』の2年目から、シネマシティでもどうですか、とのご提案が。どうやらこのメルマガを運営の方が目にされていたらしく、よりによって企画者であり、当時東宝株式会社の代表取締役だった高井英幸さんの目にも触れたとこのこと。

 これは死にたい。あんなクソ文章が偉い人に見つかるとは思ってもいなかったわけです。そしてそんな失礼な相手にも関わらず、仲間に加えてくださるとはなんというありがたや。僕はこの御恩を一生忘れないと誓いました。これに報いるため、シネマシティでは午前10時からはもちろんのこと、全作夜の回も追加。シニア層のノスタルジーだけでなく、学生や働く若者にこそ、ぜひ観てもらいたかったからです。

 全体の公開作品数の激増にともない、夜回追加は2年間でやむなく諦めざるを得なくなりましたが、【極上音響上映】という新たなブランドを確立できたので、音楽系作品でさっそく適用。その時ばかりは上映回数も増やして『サウンド・オブ・ミュージック』や『バンド・ワゴン』などの傑作を良い音響で映画ファンに届けることができました。そしてこの、映像や音響を当時では考えられなかったハイクオリティで上映できるというところにこそ、シネコン流の名画座企画の真骨頂がある、と見出すことができました。ただ再上映するのではなく、新たな価値を付与して上映するのです。

 この仕掛けがもっとも成功したのは、2016年の夏に行った『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作の【極上爆音上映】です。夏休み真っ只中、シネコンとしてはあるまじきこととは思いつつ、新作をさしおいて最大劇場で1日3回上映を決行。「こんなにも面白い映画が、この世界にはあるんだ。」というキャッチフレーズを作り、新たなファンを作ろうという強い劇場の意志を打ち出し、かつて熱狂した世代は次の世代に伝えてほしいという願いも込めました。

 ありがたいことにこの上映は満席を連発。最新鋭のサウンドシステムとベテラン音響家による調整によって、ホーンが艶やかに鳴り響くあのテーマ曲は、耳だけでなく全身を震わせ、埋め尽くされた席は他のファンの興奮も伝えます。色あせることなき作品力に圧倒され、終映後には鳴り響く幸福の拍手。僕にはこの拍手を聞いて、涙をにじませる権利があるはず。昨日や今日、映画を愛し始めたわけじゃないんだ。

 Hulu、Netflix、Amazonプライムビデオなど、映画のネット配信サービスが本格化してしばらく経過し、今思うのは、このことによって“映画館で映画を観る意味”はより鮮明になってきたのではないか、ということです。レンタルしてくる必要性が減り、ディスクの入れ替えすら不要で、観切れない無数のコンテンツがそろっている状況になって、死ぬほど観まくって、それで、あれ? 映像のエンタテイメントって、こんな程度の感動だったっけ、となっている方も少なくないはず。便利がすべての価値を駆逐するわけではないのです。

 これら配信サービスのトップページには、ピカピカの新作も30年も前の作品も、まったく同じように並んでいます。映画館はこの並びから学ぶことがあると思います。『午前十時の映画祭』は、その端緒になる、と僕は考えています。映画館のHPでも、同じように新旧がないまぜに並んでいてもいい。

      

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