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幻惑的な鏡の使い方が意味するものとは? 『ナチュラルウーマン』が描く、世界に存在する現実

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 そしてもうひとつ特筆すべきなのは、本作における幻惑的な鏡の使い方だろう。過去のトランスジェンダー映画においても、鏡は重要なモチーフとして扱われてきた。たとえば、フランソワ・オゾンの『彼は秘密の女ともだち』(2014)は、妻を亡くし、母親役をするために女装をしたことがきっかけで女性性に目覚めていく人物ダヴィッドを描いているが、ダヴィッドが自宅で見つめる鏡には二面鏡が使われており、二分割に映し出される像がダヴィッドの女性性と男性性の揺らぎを表象していた。『リリーのすべて』(2015)では、エディ・レッドメイン演じるリリーが、自らの男性器を脚の間に挟むことで女性の身体を作り上げ、理想とする女性的な身体を全身鏡に投影することによって自己陶酔する場面があった。

 一方、『ナチュラルウーマン』では、脚の間に鏡を置くことによって性器の部分がマリーナ自身の顔になる。それは性器、つまり身体的形状そのものよりも、「顔」が比喩的に指し示すものである「アイデンティティ」そのものの方が重要であることを伝えているようである。また、マリーナをふいに写し出す街中で運ばれる大きな鏡は、彼女が周囲の人々に見られることに自覚的であることを示唆しているようである。

 オルランドが残した鍵の合う場所をようやく突きとめたマリーナは、その扉をそっと開ける。その中に何があったのか、映画はすべてを見せようとはしない。私たちは想像しなければいけない、その扉の中にあったものが何なのかを、彼女が虐げられることのない人生を、すべての人々が自分らしく生きることのできる世界を。

■児玉美月
現在、大学院修士課程で主にジェンダー映画を研究中。
好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『ナチュラルウーマン』
シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開中
監督・脚本:セバスティアン・レリオ
出演:ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
原題:「Una Mujer Fantastica」/英題:「A Fantastic Woman」/2017年/チリ・ドイツ・スペイン・アメリカ作品/スペイン語/104分
(c)2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA
公式サイト:http://naturalwoman-movie.com/

      

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