松江哲明の『IT/イット』評:配信ドラマ的手法で表現された今日的な“恐怖”

松江哲明の『IT イット』評

 本作をはじめ、2017年は良質なホラー映画が沢山公開されました。これだけ良作が出揃うようになったのは、ちゃんとホラー映画を見てきた方が作り手になっているのが大きいと思います。ホラー映画は、そのジャンル性も相まって、ただ怖ければ良いという発想のB級映画が沢山作られてきました。もちろん、そういった作品の中に、キラリと尖った面白い作品もあるのですが、結局現在まで語り継がれているのは、トビー・フーパーやサム・ライミなど、作り手が強いこだわりを持って作った作品群です。

 本作のアンディ・ムスキエティ監督や、『死霊館』『ソウ』のジェームズ・ワン監督など、現在の作り手たちは、そうした先人たちの映画をしっかりと吸収して、自分の色を加えてアップデートしています。映画を撮影所や映画学校などで勉強してきた人ではなくて、ビデオや映画館で、自分で学んだ人。自国の作品だけではなく、海外の作品からも吸収しているというところに、ジャンルへの愛を感じます。本作の中にJホラーの影響も見て取れるように、旧作も新作も全部を飲み込んで表現しているのではないでしょうか。

(取材・構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作は山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』。

■公開情報
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』
全国公開中
監督・脚本:アンディ・ムスキエティ
出演:ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、フィン・ウルフハード、ソフィア・リリスほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:itthemovie.jp

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