松江哲明の“いま語りたい”一本 第23回
怪獣映画と人間ドラマを掛け合わせた秀逸な一作 松江哲明の『シンクロナイズドモンスター』評
そんな弱さを持ったオスカーが、文字通り“怪物”になってしまいます。グロリアが怪獣とシンクロするのと同じように、オスカーはロボットとシンクロしてソウルに現れるのです。オスカーは、グロリアを自分の思い通りにできないことから、腹いせにソウルの街を踏み潰していく。と言っても小学生が通学してる側で酔っぱらいが公園で歩いてるだけなんですけど(笑)。でも、そんな笑ってもしまえる描写なのに、その裏側では何万人もの被害者がいるという事実のギャップが面白い。グロリアが倒れてる目の前で街(と想定される場所)を踏み潰すオスカーの足をスローモーションでとらえながら、ビルが壊されていく効果音を重ねたカットは、この作品の仕掛けと演出の面白さが凝縮されていて、秀逸な映画表現でした。世界とは関係ないと思っている個人が、ふとしたきっかけで世界と繋がってしまう現代の怖さを、象徴的に表わしていると思います。
暴走したオスカーを止めるため、グロリアはある方法で巨大ロボットに立ち向かいます。でも、だからと言って喝采を受けてハッピーエンドらしい形になるわけではありません。他者から認められるため、褒められたりすることで自分の行動を認識するのではなく、むしろ自分の中でどう昇華させるかのほうが、現代においては重要だという監督のメッセージだと僕は捉えました。酔っぱらいが公園で転ぶことがソウルの大惨事に繋がるように、いま、個人と世界がふとした瞬間につながってしまう時代です。だからこそ、自分自身がそういう世界に対して、どう立ち向かうか、どう生きていくか。それを示唆する作品だと思いました。アン・ハサウェイが怪獣とシンクロする、程度の情報しかなっただけに、こんなにも感動的な結末を迎えるとは思いもしませんでした。
本作はアン・ハサウェイにとって重要な一本になったのではないでしょうか。製作総指揮も務め、ヒットを狙ってというよりも、どうしてもこの作品を作らなくてはならないという強い決意を感じるからです。今後もハリウッドメジャーに出演したり、賞を獲得したりと、キャリアを重ねていくと思いますが、興行成績や名誉では得られないものが『シンクロナイズドモンスター』にはあると思います。そして、映画でしか描けないものと、伝えられないものを彼女は探し、見つけたことは間違いありません。
(取材・構成=石井達也)
■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作は山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』。
■公開情報
『シンクロナイズドモンスター』
全国順次公開中
監督・脚本:ナチョ・ビガロンド
出演:アン・ハサウェイ、ジェイソン・サダイキス、ダン・スティーヴンス、オースティン・ストウェル、ティム・ブレイク・ネルソン
原題:「COLOSSAL」
配給:アルバトロス・フィルム
2016年/カナダ/英語/110 分/シネマスコープ/5.1ch
(c)2016 COLOSSAL MOVIE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://synchronized-monster.com