犯罪映画の名匠、ジャン=ピエール・メルヴィルを訪ねてーー北野武や小林政広に与えた影響とは?

ジャン=ピエール・メルヴィルを訪ねて

 展示品の品々をみつめてまず感じるのは、現場の写真、シーンの写真にしても、とにかく美しいということ。決めに決めている構図ではなく、ありふれた風景やシーンでありながらも確実に“美”が存在する。それが場面写真やポスターからひしひしと感じられる。もうひとつわかるのが、キャスティングに関しては天才的なひらめきの持ち主であること。ジャン=ポール・ベルモンドにしても、アラン・ドロンにしても、“こいつすごい俳優になる”と思ったら、すぐにオファーを出し、しかも、それまでのイメージとは真逆をいくような大胆な挑戦を厭わない。その感性はすべての役柄に通じていて、メルヴィルの作品をみると、脇役の味わい深さにも驚嘆するに違いない。岡田氏も「ベルモンドを女性を魅了してしまうカトリックの神父に仕立てたり、それまで粗暴な若者のイメージが強かったアラン・ドロンをクールな殺し屋を演じさせたり、いまでこそ違和感がないかもしれませんが、当時としてはこの起用法は画期的でした」と語る。

 「犯罪映画の名手として語られることが多いのですが、おそらくメルヴィルは映画作家というよりも、大衆のための監督でいたかったのではなかったかと思います。一部の映画ファンに熱狂的に愛されるよりも、大衆に寄り添って、大衆に支持される作品が作りたかったという気がします。また、今回の資料を見て思ったのは、常にたくさんの企画を抱えていた監督だということです。例えばジャック・ドゥミなどは自分の企画を大切に温めて育てて、それをひとつひとつ実現していくタイプですが、メルヴィルは“これがダメなら、これはどう?”みたいな対案を常に持ち合わせているタイプ。ゴダールの『勝手にしやがれ』にワンシーンだけ出演したよしみで、ジーン・セバーグの主演企画も考えていたぐらいです。そのあたりの資料がもっと見つからないかと期待しています」とは、今回の展覧会の企画を詰める中で岡田氏が見出したメルヴィルの新たな発見。北野武にも、クエンティン・タランティーノにも、あのマーティン・スコセッシにも影響を与えているフランスの偉人に出会ってほしい。

 なお、12月2日(土)には、トークイベントを実施。小林政広監督が『メルヴィル映画の思い出とその影響』をテーマに、メルヴィルを語り尽くす。こちらにも注目したい。

(取材・文=水上賢治)

■関連情報
「生誕100周年 ジャン=ピエール・メルヴィル、暗黒映画の美」
会期:12月10日(日)まで
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター7F展示室
開室時間:11:00~18:30(入室は18:00まで)
料金:一般250円/大学生・シニア130円/高校生以下及び18歳未満、障がい者は無料

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