「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ブラッド・スローン』「デヴィッド・リンチの映画」
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品&特集上映をプッシュします。
『ブラッド・スローン』
プロ野球ペナントレースもいよいよ最終局面、残り5試合4勝必須の横浜DeNAベイスターズファン、石井がオススメするのは『ブラッド・スローン』。一昔前なら、シアターN渋谷や銀座シネパトスなどで上映されていたかもしれない“ジャンルムービー”を連発している松竹エクストリームセレクション。これまで公開された『ジェーン・ドウの解剖』『アイム・ノット・シリアルキラー』のホラー路線から一転、本作はプリズンクライムものとしてシブい魅力を放っています。
マッチョな男たちが半裸で集うポスタービジュアルの印象だと、一方面をターゲットにしたキワモノ作品と思うかもしれません。しかし、冒頭のファーストカットを見れば、そんな作品ではないことがすぐに分かります。舞台が刑務所ということもあり、本作には“檻”や“柵”などによって、閉塞した空間が頻出します。その切り取り方、ライティングの加減などで、主人公ジェイコブの心境や、刑務所内での立ち位置の変化が伝わってくるのです。これまで『プリズン・サバイブ』、『オーバードライヴ』と連続してクライムサスペンスを手がけてきた、リック・ローマン・ウォー監督の手腕が光る、緊張感のある演出です。
ジェイコブは絵に描いたような上流階級の生活から一変、友人夫婦との食事会帰りに飲酒運転での事故によって凶悪犯が集う刑務所に収監されてしまいます。後ろ盾も何もない“一般人”だったジェイコブは、生き残るために自らを豹変させていきます。敏腕株式ブローカーとして、富を築いていたジェイコブだからこそ、そのデキる能力を駆使して刑務所内でのし上がっていってしまうという皮肉。刑務所内の“リアル”に関しては、先日、リアルサウンド映画部で本作について語ってくれた、KEIさんの実体験を踏まえた言葉が重くのしかかってきますが、意志を貫き通した先に“死”があるのであれば、彼の豹変も致し方無いのかもしれません。
ジェイコブを演じたニコライ・コスター=ワルドーは、収監前と後では別の役者が演じてるのかと思うほど、その風貌を変えています。日本にはない“自由”があるアメリカ刑務所では、強さのために、とにかく筋トレ三昧らしく、映画に出てくる囚人たちもほとんどがガッシリ体型です。争いどころか殺人まで起きている刑務所にも関わらず、“自由”が与えられ過ぎているのが不思議なところですが、あの世界に囚われたら最後、釈放されてもそこから逃れることの出来ない怖さが描かれています。
実在の刑務所で撮影を敢行し、本物のギャングもエキストラとして参加している“リアル”さを、是非映画館で体感してほしいです。
■公開情報
『ブラッド・スローン』
9月30日(土)公開
監督・脚本:リック・ローマン・ウォー
出演:ニコライ・コスター=ワルドー、オマリ・ハードウィック、ジョン・バーンサル、ジェフリー・ドノヴァン
2016年/アメリカ/121分/PG12
(c)2015 Shot Caller Films, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:bloodthrone.jp
「デヴィッド・リンチの映画」
2017年劇場鑑賞本数452本(2017年9月29日現在)、週末は基本的に映画館で暮らしている、リアルサウンド映画部のロン毛担当・宮川がオススメするのは、特集上映「デヴィッド・リンチの映画」。
本国アメリカで1990年から91年にかけて放送され、92年には劇場版も公開された、映画監督デヴィッド・リンチによるTVシリーズ『ツイン・ピークス』。今年、その25年ぶりとなる新シリーズ『ツイン・ピークス The Return』が放送され、ここ日本でも大きな話題を呼んでいるなか、デヴィッド・リンチが手がけてきた名作がついにスクリーンで復活する!
「デヴィッド・リンチの映画」というダイレクトすぎるにもほどがあるタイトルがつけられた今回の特集上映には、リンチ監督の長編デビュー作となる『イレイザーヘッド』、ジョン・ハートやアンソニー・ホプキンスが共演し、アカデミー賞8部門にノミネートされた『エレファント・マン』、先述したTVシリーズ『ツイン・ピークス』の劇場版『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』、O・J・シンプソン事件から着想を得たという、ビル・プルマン&パトリシア・アークエット共演作『ロスト・ハイウェイ』、リンチファンの間でもカルト的な人気を誇る、第54回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作『マルホランド・ドライブ』、今年、映画界からの引退を表明したリンチにとって、現状最後の長編監督作となっている『インランド・エンパイア』の6本がラインナップ。
リンチの作品をまとめて観ることができる特集上映はかなり久しぶりのように思う。筆者が最後にスクリーンでリンチの作品を観たのは、昨年、池袋・新文芸坐のオールナイト上映でかかっていた『インランド・エンパイア』。“境い目ぼんやりナイト”と題されたそのオールナイト企画では、『インランド・エンパイア』のほかに、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『オンリー・ゴッド』、レオス・カラックス監督の『ホーリー・モーターズ』が上映されていて、どの作品も個人的に愛してやまない作品にもかかわらず、そのタイトル通り“ぼんやりナイト”と化してしまったのだが、今回の特集上映はオールナイトではないのでぼんやりしてしまう心配もないだろう(とはいえ2時間超えの作品がほとんどなので、万全の体調で望みたいところだ)。
しかも今回上映される作品のうち、『イレイザーヘッド』と『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』は4Kデジタル復元版、『イレイザーヘッド』『エレファント・マン』『マルホランド・ドライブ』はデジタル復元版での上映ということで、最低でも全作品1回ずつは鑑賞しておきたいところ。なぜこの6本の作品が選ばれたのかを考えると、おそらく権利関係などで上映できない作品があることも予想されるが、リンチにとっての初期の傑作から代表作と言われる名作、そして最新作を通して、幻想的なリンチワールドに魅了されること間違いなしだろう。これまでリンチの監督作を観たことがない人にとっては、入門編としても適したラインナップだと言える。
来年1月には、リンチ本人が幼少期から映画監督になるまでを語るドキュメンタリー映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』も公開されることが決まっている。久しぶりにやってきた“リンチフィーバー”。これに乗らない手はないだろう。
■公開情報
「デヴィッド・リンチの映画」
9月30日(土)〜角川シネマ新宿ほか順次公開
【上映作品】
『イレイザーヘッド』(4Kデジタル復元版)、『エレファント・マン』(デジタル復元版)、『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(4Kデジタル復元版) 、『ロスト・ハイウェイ』(デジタル復元版)、『マルホランド・ドライブ』(デジタル復元版)、『インランド・エンパイア』
配給:KADOKAWA
公式サイト:cinemakadokawa.jp/