直虎と龍雲丸はどんな人生を選択するのかーー『おんな城主 直虎』城を失って気付いたこと

 今回、家と城を失うにあたって、そのことをすんなりと受け入れる女性たちの前向きな姿が、当惑する男性陣とは対照的に描かれていた。なつ(山口紗弥加)の「おなごはあまり昔を振り返らぬようできている」という健気で逞しい言葉がその姿を余計に際立たせる。

 だが、直虎は最初から一歩引いた目線で男たちを見ていたというわけではない。井伊家を終わらせるという話を受けた男たちは、「石にかじりついてでも成し遂げる。それが殿というものではないのか」、「あきらめなければ負けることはない」、「奇跡はおこる」と口々に言う。その言葉は、本来直虎がかつては信じていた言葉ではなかったか。当主になりたての頃の希望に溢れた彼女は、どちらかと言うと知性よりも根性と気合で突っ走るキャラクターで、それを政次が知性と冷静さで補っていた。だが、多くの悲劇を経験し、「次郎」としての鎧を着込み、亡くなった人々の思いを担い、竜宮小僧として人々の願いを叶えるための存在としてのみ生きていたその役割を一旦おろし、ただのおとわという1人の女性になった時、彼女は、「あきらめてこそ得られるものがある」、「井伊にだけは奇跡が起こるとでも言うのか」と、例え今まで言ったことを撤回することになったとしても、愛する人たちを守るために、これまで誰も口にしなかった真実を口にするのである。

 井伊の城はなくなったが、以前高瀬が直之に言ったように「城がなくなってもここにこうしてある。1人1人がしっかりと生きることが井伊を繋ぐ」ので井伊は滅びることはない。城と家名をなくすことで、彼らの身は守られた。本人曰く「頼りない城主」であった直虎のために集った人々の心の中に井伊はしっかりと存在し続けている。そして後は、直虎に食ってかかった直久・亥之助・虎松という次世代メンバーが成長するのを待つのみなのだろう。ついに、菅田将暉演じる虎松が登場するようだ。楽しみである。

 本日放送の38話の副題は「井伊を共に去りぬ」だ。『風と共に去りぬ』のレット・バトラーは去り、スカーレット・オハラは荒廃した故郷の土を握りしめるが、直虎と龍雲丸の2人は、これから先、どんな人生を選択するのだろう。この大河ドラマは先が全く読めないので油断大敵である。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿

■放送情報
『おんな城主 直虎』
[NHK総合]毎週日曜20:00〜20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00〜18:45
作:森下佳子
主演:柴咲コウ
制作統括:岡本幸江
プロデューサー:松川博敬
演出:渡辺一貴、福井充広、藤並英樹
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/naotora/

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