『HiGH&LOW THE MOVIE 2』脚本家・平沼紀久が語る、“ユニバース化”する物語世界とその作り方
俳優部の熱量でしか出てこないセリフがある
ーーそれは楽しみです。LDH所属の俳優やパフォーマーでしたら、そのキャラクターの基盤となる「人となり」を把握しやすいと思います。しかし『HiGH&LOW』には窪田正孝さんや山田裕貴さん、林遣都さん、新作では中村蒼さんらLDH所属ではない俳優も多数出演しています。キャスティングに関しての基準はありますか?
平沼:「性格と、今1番輝いている人、これから輝く人を」というイメージです。そこからキャスティングの交渉が始まりますね。あとは、例えば達磨一家の林遣都でいうと、以前僕が『荒川アンダー ザ ブリッジ』(2011年にTBS系列で実写ドラマ版・2012年に実写映画)のドラマ版に出演していたときに、共演したことがあったんです。遣都が主人公・リクルート役で、僕はビリー役でした。撮影初日の夜、監督の前で遣都が「こんなに豪華な俳優陣に対して主役が俺でいいのか」と男泣きしたんです。
ーー実写版『荒川アンダー ザ ブリッジ』は星役に山田孝之さん、カッパ役に小栗旬さんを筆頭に豪華なキャスティングが話題になりました。
平沼:そんな時に(山田)孝之は事務所の先輩でもあるので「大丈夫だよ」とアドバイスをしていたり。その関係がすごく良いと感じたんです。孝之自身もかつて自分自身ではじめて作品を選んで出演した『クローズZERO』があって、そこで監督の三池(崇史)さんに「僕がこの役でいいんですか?」と言ってたそうなんです。そういう時に「大丈夫」という一言が大事というか。それ以降、髭を生やしたりして、事務所の求める俳優のイメージとずれていくところを上手くプロデュースする方法を知っていて、それを遣都に教えていたんです。そこで達磨一家の日向の役は遣都にやって頂きたいと思ったんです。すごい速度で変わってゆく遣都に、さらにきっかけになる役をやってほしかった。
ーーたしかに日向の役はこれまでの林遣都さんがやってきた役イメージからは離れていますね。
平沼:そうなんです。遣都が「ノリさん、実はこういう役がやりたかったんです」と言ってくれて。嬉しかったし、だから「日向」には「紀久」という僕の名前がついてるんですよ(笑)。
ーーそんなエピソードがあったのですね。
平沼:今回撮影でも僕もほぼ全部の現場にいて、それは俳優部が「セリフをこう変更したい」ということを話し合えるからなんですけど。基本的にHIROさんもセリフは本質が変わらなければ語尾も全部変えてOKというのは言っていて、今回遣都も「ここのセリフをこう変えたい」と相談しにきても「この意味だけはずらさないでね」と言うと、意味を理解した中で新しいイメージを入れてくれました。
ーー前作のキメ台詞「ムゲンは仲間を見捨てねえ」がアドリブだったという話はファンの間でも有名ですが、そういったアドリブはよくあることなのでしょうか。脚本家として俳優のアドリブ自体はまったく問題ないと?
平沼:もちろんです。逆にその俳優部の熱量でしか出てこないセリフがあるということもわかっているので。
ーーさきほどおっしゃっていたように、「存在するだけで説得力があるキャラクター」の設定を事前に作っているからこそ、俳優から出てくるものはそのキャラクターのセリフだということでしょうか。
平沼:その本人から出てる言葉なので、僕たちが想像して書くよりもリアルということもあるんです。でもこのセリフを変えるとストーリーの本筋がずれてしまうものだけは、キープしないといけないから、そういうところは守りますけど。むしろガッチリ書けば書くほど自由が奪われていく気がするんです。大人になると守るものが増えるというのが今回の『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』のテーマなんですけど、最初は守るものがなく戦っていた男の子たちにどんどん守らないといけないものが増えていく。それによって大人になっていくんです。それと同じように脚本にも守るもの、これをやらなければという要素が増えれば増えるほどチャレンジする余白がなくなってくると思っていて。だからその余白をどう残すかは常に考えますね。
ーー平沼さん自身が俳優でもあるので、演じる方のことも想像できてしまうからでしょうか。
平沼:僕のイメージは例えば「……」とかト書きで書いてても、理解して察してくれる人と、それを理解できない人がいると考えているので、シーンによっては説明的なセリフをわざと書いてるんです。これはスタッフのためでもあります。そこで俳優部が「これセリフで説明しちゃってますよね」と来ると、「だよね、じゃあ言わなくていいよ」という判断になるんです。だから「セリフを一字一句間違えないで言え」なんて思ってないんです。作家側にそういう意味での変なプライドがないし、「皆で作ろうぜ」という雰囲気なんですよ。本当は準備稿に全部書いて、決定稿にはあまり書かない…とかしたいのですが、20稿くらい変わるのが『HiGH&LOW』なんで、なかなか(笑)。まぁ僕自身、作家ですと胸を張れないし、アウトサイダーだと思っていますので、許してください(笑)。
ーー『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』から新たに登場する小林直己さん(EXILE・三代目J Soul Brothers)演じる「黒崎会」若頭の源治や、NAOTOさん(EXILE・三代目J Soul Brothers)演じる「プリズンギャング」のジェシー、関口メンディーさん(EXILE ・GENERATIONS)演じるフォーなど、一気にキャラクターも増えました。
平沼:色々な資料読んでたら「プリズンギャング」といわれる刑務所内の話があったんです。5つか6つぐらいのギャングがいて、それは刑務所の外にも中にも影響力があるというんです。それがSWORDみたいだったんですよ。そこから着想を得ました。キャラクターのキャスティングのイメージはHIROさんですね。HIROさんが「今回は直己がいいね、NAOTO、メンディーでいきたいね」という判断をしていくんです。多分頭の中に色々あるんだと思います。僕らは作品をどう作るかしか考えていないんですけど、HIROさんはメンバーの各々のグループの活動と『HiGH&LOW』の兼ね合いや、その先にどういうグループ像があるのか、グループの中でもひとりひとりの夢に向かって導いていくのかを考えていると思うんです。多分そういう流れの上にHIROさんのイメージがあるんだと思うんです。
ーーそしてWhite Rascalsと敵対するスカウトチーム・ダウトの新リーダー林蘭丸(中村蒼)は悪のカリスマとされています。『HiGH&LOW』シリーズ初の「絶対悪」といえる存在ではないでしょうか。
平沼:『無痛~診える眼~』(フジテレビ)の時の中村くんのイメージがすごく強くて、中村くんならロッキー(黒木啓司)と対峙する男をしっかりと演じてくれると思いました。もちろん、『ダークナイト』のジョーカー、『トゥルー・ロマンス』のゲイリー・オールドマンのようなイメージを最初もっていたのですが、HIROさんのアドバイスから、普通な感じからそんなイメージが出るように……とキャラクターを作っていきました。
ーー『HiGH&LOW』といえば豪華なアクションも魅力のひとつです。例えば『ワイルド・スピード』シリーズなどのハリウッド映画を意識しているのでしょうか。
平沼:『トリプルX』とかね。久保茂昭監督は『トリプルX』や『ワイルド・スピード』のようなアクション映画が大好きですよ。だから乗り物の乗り方ひとつとっても、見て頂ければわかるんですけど、普通だったらそんな乗り方できないよねという(笑)。だから変な話『HiGH&LOW THE MOVIE 1』のクライマックスで、車のボンネット上に日向がいるというのもそうですし。脚本の段階では基本的に「登場」しか書いてないので、インパクトのあるものを監督と一緒に考えさせてもらっています。
ーーなるほど。
平沼:聞いたお話ですが、日本の映画は、普通だったら予算の問題でアクションをできるだけ減らして物語で引っ張っていこうとするケースが多いみたいなんです。でも、そこに対して『HiGH&LOW』ではアクションを見せたい、そのアクションにもきちんと意味があって、戦いをフィーチャーして、戦いの中に起承転結があるんです。それを見ている人が自分の人生に重ねて観てほしいんです。それが本当のアクションムービーなんじゃないかな。冒頭でも話しましたが『メンバーの身体を使う映画が創りたい』がコンセプトでもあるので。