『スパイダーマン:ホームカミング』が追求した、“青春学園もの”としての側面

青春学園ものを追求した新『スパイダーマン』

 今回、スパイダーマンが戦う強敵は、空を飛ぶ“ヴァルチャー”だ。彼を演じるのは、過去にDCコミックスの象徴的ヒーローであるバットマンを演じ、さらにそのパロディー的な役柄として『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』に主演したマイケル・キートンだ。この男は、解体作業などを生業とする小さな会社の社長で、政界と結託したトニー・スタークの企業に、法律を後ろ盾に仕事を奪われるという仕打ちを受けたことでスタークに恨みを持っている。彼は業務のなかで手に入れたエイリアンの技術を悪用して空を飛びまわり、反社会的なハイテク武器商人として悪事を重ねていく。

 両親がいないために、マリサ・トメイが演じる異様にセクシーなメイおばさんと同居しているピーター・パーカーは、トニー・スタークに協力して以来、彼を理想の父のような存在として憧れていた。それは、父に対する子どもの感情である。その熱意が空回りしながらも、次第にヴァルチャーに迫っていくピーターだったが、その過程で、悪党に武器を売りさばき、ピーターの地元であるニューヨーク、クイーンズ区の安全を脅かしたヴァルチャーという怪人は、前述のとおりトニー・スタークが間接的に造り出した存在だということに気づくことになる。そもそもスターク自身も、かつては武器商人として戦争に加担して儲けていた人間だった。

 『アベンジャーズ』、および『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』にて、スタークはアイアンマンとして世界を救うことに尽力したことは確かだ。だがその過程で、新たに多くの罪のない人間が巻き添えになって死亡し、甚大な被害を出してしまったという負の側面があったことは、『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』でも語られていた。「大事のために小事を切り捨てる」……それが本意ではないにせよ、結果的に切り捨てられた人物が存在するのだ。その一人がヴァルチャーなのである。

 トニー・スタークには見えていない、小さな世界の悲劇。その現実に直面したピーター・パーカーは、理想の父と思っていたスタークとは別の道に進む決断をすることになる。彼は一人の大人としてスタークに向き合い、自分の見つけた生き方を選ぶことによって、一人前のヒーローに成長するのである。この構図は、そのままジョン・ヒューズ作品のテーマに結びついているといえよう。ここに至って、ジョン・ワッツ監督のこだわりを理解することができるのだ。

 だが、ジョン・ヒューズ監督の青春映画とは、明らかに異なる部分もある。ピーターの憎めない親友・ネッド、またピーターが片想いをする年上の女の子・リズをはじめ、アフリカ、アジア、中南米など、様々な人種が登場するという点である。この多様性を描くということが、現代のアメリカにおいて学園ものを撮ることの意義となっているはずだ。

 そんな同級生たちを助けるため、スパイダーマンがワシントン記念塔に登っていく高所アクションは、マーベル映画のなかでもベストといえる完成度である。特別なパワーを持ったヒーローの戦いは、「死ぬようなことはないだろう」という安心感が漂うことが多いが、失敗が死に直結するというシチュエーションを作り出したという点、しかもそのアクロバティックなアクションが、スパイダーマンの持ち味を活かしたものになっているという意味で、多くのアクション映画が、参考にしてほしいと思えるような、緊迫感にあふれる表現が達成されていた。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『スパイダーマン:ホームカミング』
全国公開中
監督:ジョン・ワッツ
出演:トム・ホランド、ロバート・ダウニー・Jr.、マイケル・キートン、マリサ・トメイ、ジョン・ファヴロー、ゼンデイヤ、トニー・レヴォロリ、ローラ・ハリアー、ジェイコブ・バタロン
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)Marvel Studios 2017. (c)2017 CTMG. All Rights Reserved.
公式サイト:Spiderman-Movie.JP

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